京都大学 ウイルス・再生医科学研究所

ザイールエボラウイルス糖蛋白質の82番目と544番目のアミノ酸変異は感染効率に関与する

上田真保子1†*、黒崎陽平2†、泉泰輔3、中野雄介3、Oloniniy K. Olamide2、安田二郎2、小柳義夫3、佐藤佳3,4*、中川草1,5*

(1東海大学マイクロ・ナノ研究開発センター、2長崎大学熱帯医学研究所、3京都大学ウイルス・再生医科学研究所、4科学技術振興機構CREST、5東海大学医学部. †Equally contributed to this study, *Correspondence)

“Functional mutations in spike glycoprotein of Zaire ebolavirus associated with an increase in infection efficiency”

Genes to Cells (2017) DOI: 10.1111/gtc.12463

概要

エボラウイルスはフィロウイルス科に属する RNA ウイルスで、現在までに 5 種類が報告されています。その中でもザイール(Zaire)種は、アウトブレイクの発生頻度が高く、特に2014-15年に西アフリカで多くの死者を出しました。エボラウイルスの表面にある糖蛋白質(Glycoprotein, GP)は、ウイルスが細胞に侵入するのに必須な蛋白質です。2014-15年のアウトブレイクは過去に例をみない規模の流行であったことから、その一因として、2014-15年に流行したウイルスは、ヒトへの感染効率をあげるような変異を GP が獲得している可能性があると考えました。そこで我々は、Zaire種の GP遺伝子147配列(重複配列を除いた)を用い、非同義置換(dN)と同義置換(dS)の進化速度の比率(dN/dS)を計算し、正の淘汰を受けた、すなわち生存に有利な突然変異として集団に広がったアミノ酸置換サイトを推定しました。その結果、2つのアミノ酸サイトで統計的に有為な正の淘汰(A82VとT544I)を同定しました。また、2014-15年のアウトブレイクで流行した Makona 株の全ゲノム配列を用いた系統解析では、これらの二つの変異体の集団への広まり方が、まったく異なることを発見しました。 A82V 変異は2014年5月あたり、ギニアからシエラレオネへの感染拡大の過程において生じて集団に固定されたのに対し、T544I 変異はアウトブレイクのごく初期に少なくとも 3 回生じましたが、集団に固定することなく消失しました。さらに、これらのアミノ酸変異がウイルスの感染価に与える影響について、Makona GP を用いたシュードタイプレポーターアッセイで調べたところ、祖先型(A82/T544)の Makona GP と比べ、A82V と T544I 変異型の GP の感染価はそれぞれ1.8倍、4.3倍上昇していました。従って、T544I と比べ緩やかな感染能の上昇を示した A82V の変異が集団に固定し、広まったと考えられます。以上の結果は、エボラウイルスのヒトに対する感染能の著しい上昇は、むしろエボラウイルスの増殖には悪影響があり、緩やかな上昇のほうが集団での広がりに有利であったことを示唆していると考察しました。

本研究は東海大学医学部と長崎大学熱帯医学研究所との共同研究で実施した、実験ウイルス学と分子進化学の学際融合研究の成果です。本研究は、京都大学ウイルス研究所 共同研究課題、文部科学省 私立大学戦略的研究基盤形成支援事業、科学技術振興機構CREST、日本医療研究開発機構に資金援助を受けました。

 


図1 今回の研究の概要