京都大学 ウイルス・再生医科学研究所

転写因子Eタンパク質とId因子による制御バランスが獲得免疫リンパ球の分化を規定し、同時に自然リンパ球の分化を抑制する

宮崎正輝1,2、宮崎和子1,2、Kenian Chen3, Yi Jin3, Jacob Turner3, Amanda Moore2, 斎藤輪太郎4、吉田健一5、小川誠司5、Hans-Reimer Rodewald6, Yin C. Lin3, 河本宏1、Cornelis Murre2

1京都大学ウイルス・再生医科学研究所再生免疫学分野、2カリフォルニア大学サンディエゴ校分子生物学、3ベイラーリサーチ研究所、4カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部、5京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学、6ドイツ癌研究所細胞免疫学分野)

“The E-Id Protein Axis Specifies Adaptive Lymphoid Cell Identity and Supresses Thymic Innate Lymphoid Cell Development”

Immunity 2017. doi:org/10.1016/j.immuni.2017.04.022

概要

免疫反応は、ウィルスや細菌などの感染に対する生体防御機構であり、獲得免疫と自然免疫の協調作用により成り立っている。T細胞は、獲得免疫反応の中心的な役割を担うリンパ球であり、感染防御・アレルギー炎症・癌免疫などで重要であることが知られている。最近、自然免疫系の新たなリンパ球集団として自然リンパ球(Innate Lymphoid Cells: ILCs)が同定された。自然リンパ球は、アレルギー疾患や炎症性腸疾患、糖尿病などの代謝性疾患と関連すると考えられ、主に炎症性サイトカインを分泌することで炎症反応を増強する。自然リンパ球とT細胞は、分泌するサイトカインや鍵となる転写因子などを共有しており、機能的にも類似性が高い。また二つのリンパ球とも、共通リンパ球前駆細胞(CLP)から分化することが知られている。この二つのリンパ球の最大の違いは、T細胞が抗原特異的な受容体により活性化するのに対して、自然リンパ球はサイトカイン刺激で活性化することである。この類似性の高い二つのリンパ球の分化の分岐点についてはこれまで全く研究されていなかった。
今回、我々は世界で初めて、bHLH型転写因子E2AとHEBが、1) B細胞だけでなくT細胞の分化決定にも必須であること、2) T細胞に特異的な分子群をこれらの因子が直接制御していること、さらには、3) この転写因子の働きにより自然リンパ球への分化が抑制されていることを明らかにした。特にE2A/HEBの標的遺伝子として、T細胞分化に必須のシグナル分子であるNotchレセプターの発現を制御していること、Rag1/Rag2/ku70といったT細胞受容体遺伝子の組換えに重要な分子の発現を制御していることなどを解明した。加えて、ChIP-seq解析、ATAC-seq解析の結果から、E2AとHEBがこういった標的遺伝子のエンハンサー領域のオープンクロマチン状態の維持を行なうことで、これらの遺伝子発現を制御していることを明らかにした。特に、自然リンパ球とT細胞の一番の違いである抗原認識受容体の遺伝子再構成を制御しているということは、E2AとHEBが二つの類似のリンパ球の違いを生み出していることを意味する。言い換えると、獲得免疫系と自然免疫系の二つのリンパ球の分岐を制御しているとも言えることから、学術的に非常に大きな発見である。
今回の発見は、生体防御の中心的な役割を担う二つの異なるリンパ球の分化が、どう制御されているのか、その一端を初めて明らかにした。

図1 bHLH転写因子E2AとHEBによる、獲得免疫系(T, B細胞)と自然免疫系リンパ球の分化の分岐点での制御機構のモデル