京都大学 ウイルス・再生医科学研究所

動く細胞集団の作る新しいパターンの発見~神経幹細胞はトポロジカル欠陥を選別する~

Kyogo Kawaguchi1,2, Ryoichiro Kageyama3, and Masaki Sano1

1東京大学大学院理学系研究科物理学専攻、2ハーバード大学医システム生物学科、3京都大学ウイルス・再生医科学研究所

“Topological defects control collective dynamics in neural progenitor cell cultures”

Nature 545, 327-331. doi:10.1038/nature22321

概要

鍋の中に短く切った乾麺を入れ、ゆすりながら敷きつめると、乾麺同士がぶつかり合い、最終的に隣り合う乾麺の向きがそろった状態に落ち着きます(図1)。ところがこの状態の全体を見渡すと、乾麺の向きが全くそろっていない奇妙な点がところどころに生じうることがわかります。これは『トポロジカル欠陥』(注1)と呼ばれる構造で、一度形成されると鍋を多少ゆすった程度では消すことができない、頑強なパターンであることが知られています。
ハーバード医大・東京大学理学系研究科の川口研究員らのグループは、脳の元となる神経幹細胞の集団においても同様なトポロジカル欠陥が生じることを見つけ、さらにそのトポロジカル欠陥の位置に細胞が集積するという新しい現象を発見しました(図2)。トポロジカル欠陥は、その頑強な性質から、液晶や磁性体などの物質の性質に強く影響を及ぼすことが分かっており、その研究は昨年のノーベル物理学賞の対象の一つともなりました。しかし、棒や磁性体のように止まっている集団の中のトポロジカル欠陥の性質が調べられている一方、細胞のように自発運動する集団の中で何が起きているかは、これまで未解明でした。この研究により、生物の発生過程やヒトの体内で細胞がどのように輸送されるかなど、医学的に未解明な課題に新たな切り口が持ち込まれるものと期待されます。

 図1 短い麺を鍋に敷きつめた際にできるパターン。パスタの配列が良くそろっている場所もあるが(緑領域・左拡大図)、うまくそろっていない場所もある(赤領域・右拡大図)。後者は『トポロジカル欠陥』(注1)と呼ばれる構造の一例であり、一度形成されるとなかなか消えない、頑強な構造であることが知られている。(写真:Prospect labにて実験)

 

 図2 神経幹細胞(左・高倍率、スケールバー= 100μm)が作るマクロなパターン(中央・低倍率、スケールバー= 1 mm)と2種類のトポロジカル欠陥(右・高倍率、スケールバー= 100μm)。赤棒=+1/2トポロジカル欠陥、青三角=-1/2トポロジカル欠陥のそれぞれの位置を表している。

用語解説

(注1)トポロジカル欠陥:
液晶分子や磁性体のスピンなどにおいて、隣り合う要素が向きをそろえたがる状況があると、局所的にたくさんの要素が同じ方向にそろい、秩序立った状態が実現する(図1、緑領域)。この秩序立った状態を広く見渡すと、秩序方向が存在しない特異的な点が存在することがわかる(図2、赤領域)。このような点は一般にトポロジカル欠陥と呼ばれ、周囲を秩序立った状態に囲まれて「保護」されているため幾何学的に安定であることがわかっており、秩序や空間次元に応じて様々な種類が存在することが知られている。本研究で観察されたトポロジカル欠陥は+1/2と-1/2の二種類で、特異点の周りを左回りに1周したとき、細胞の向きが左回りに360度の半分回転するものが+1/2(図2右赤)、右回りに半分回転するものが-1/2(図2右青)である。台風や渦潮、樹木の年輪の中心などもトポロジカル欠陥の一種である。

 

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