京都大学 ウイルス・再生医科学研究所

光遺伝学による遺伝子発現の細胞間リズム同期の再構成

磯村 彰宏1,2, 小串 典子3, 郡 宏3, 影山 龍一郎2,4,5,6

1 科学技術振興機構 さきがけ、 2 京都大学ウイルス・再生医科学研究所、3 お茶の水女子大学情報科学科、4 京都大学物質・細胞統合システム拠点、5 京都大学生命科学研究科、6 京都大学医学研究科

“Optogenetic perturbation and bioluminescence imaging to analyze cell-to-cell transfer of oscillatory information”

Genes & Development 31, 524–535 (2017). DOI: 10.1101/gad.294546.116

概要

多細胞生物において遺伝子発現の細胞間相互作用はリガンド及びレセプター(受容体)と呼ばれる送受信機能を担う生体分子によって実現される。しかし、細胞がパルス振動などの動的状態を自分以外の細胞にどのように伝達しているのかは十分に明らかになっていない。
例えばマウスの発生期の体節形成過程ではNotchシグナルが2〜3時間周期で振動して細胞集団レベルで位相が同期していることが知られている。この同期現象の存在は、細胞が振動情報の送受信機能を備えており、細胞同士がお互いの位相情報を交換して自分の位相を合わせていることを示唆している。この情報伝達機構を明らかにするため、これまで遺伝子のノックアウトや阻害剤などを使った破壊実験によって位相同期に必要な生体分子の数々が探索・提案されてきた。しかし、細胞がそれらの生体分子を使って実際に動的情報を隣接細胞に伝達し、さらに周期や位相などの時間情報を解読できるのかどうかは明らかではなかった。
そこで本研究では、遺伝子発現リズムの周期・位相といった動的情報の細胞間伝達を可能にする最小要素を同定するため、 Notch シグナルを介した遺伝子発現リズムの細胞間位相同期現象を光遺伝学技術によって再構成することを試みた。具体的には、Notchシグナルの制御に関わる生体分子の振動ダイナミクスを光遺伝学技術によって人工的に誘導・再構築した。それと同時に、遺伝子活性の生細胞観察を可能にする生物発光レポーターを用いることで、光摂動に対する細胞の動的応答を1細胞経時イメージングによって定量計測した。
その結果、受信機能に関しては、通常2〜3時間周期で振動しているHes1の遺伝子発現リズムが様々な周期(1.8〜5.5時間)の外部刺激に応答・同期できること、特にHes1リズムの自然周期(約2.6時間)に近い周期の外部刺激で最も効率的に同期できること、そしてその動的応答は位相情報だけを考慮した確率的位相モデルを使った数値シミュレーションによって再現可能であることが明らかになった。
また、リガンド分子のDll1の発現を光制御可能な送信細胞と、隣接細胞のDll1からの刺激に伴う応答を発光によって光計測可能な受信細胞の2種類の細胞を混在させて培養して周期的光刺激を与えた結果、受信細胞の周期的な応答が観察できた(図)。この動的情報伝達の再構成実験の結果は、リガンド分子のDll1の発現ダイナミクスが周期・位相の動的情報の細胞間伝達を実現するのに十分であることを示している。
以上のことから、光遺伝学による制御技術と生細胞イメージング技術を組み合わせることによって、遺伝子発現の動的情報が細胞間で送信・解読されるための情報処理機構を解明できることがわかった。本研究は、様々な生体分子による遺伝子活性の動的制御機構を解明するために基盤技術として有用であると考えられる。

※本研究成果は、科学技術振興機構CREST、科学技術振興機構 さきがけ、科研費の支援によって得られた研究成果です。

参考文献
[1] J. E. Purvis and G. Lahav Cell 152, 945 (2013).
[2] J. H. Levine, Y. Lin and M. B. Elowitz Science 342, 1193 (2013).
[3] A. Isomura and R. Kageyama Development 141, 3627 (2014).

 


図 送信細胞におけるDll1の光遺伝学的発現制御と受信細胞における周期的な応答

 

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