京都大学 ウイルス・再生医科学研究所

妊娠期の腹部皮膚の伸展を可能とする表皮幹細胞ダイナミクスの解明

一條 遼1, 2、小林 大毅1, 2、米田 早織1, 2、飯塚 ゆい1, 2、久保 嘉一1, 2、松村 繁1, 2、北野 さつき3、宮地 均3、本田 哲也4、豊島 文子1, 2

1京都大学ウイルス・再生医科学研究所生命システム研究部門組織恒常性システム分野、2京都大学大学院生命科学研究科高次生命科学専攻細胞増殖統御学分野、3 京都大学ウイルス・再生医科学研究所附属感染症モデル研究センター、4京都大学大学院医学研究科皮膚科学講座)

“Tbx3-dependent amplifying stem cell progeny drives interfollicular epidermal expansion during pregnancy and regeneration”

Nat Commun. 8: 508, 2017  DOI: 10.1038/s41467-017-00433-7

概要

 皮膚組織は表皮、真皮、皮下組織より構成され、表皮は内側から、基底層、有棘層、顆粒層、角質層からなる4層構造を形成しています。表皮基底層には、増殖能と未分化性を維持する表皮幹細胞が存在し、それらが上層に移行しながら段階的な分化過程を経て、最終的に表層から剥がれることで皮膚の新陳代謝が繰り返されます。近年、皮膚の新陳代謝や創傷治癒のメカニズムが明らかになりつつあります。一方、皮膚はライフステージごとの体型変化に伴って表面積を柔軟に変化させますが、生理的な体形変化に対して表皮幹細胞がどのように応答しているのかについては全く不明でした。
 本研究では、急速に拡張する妊娠期の腹側皮膚に着目し、その拡張メカニズムを解析しました。まず、妊娠期には、腹側表皮の基底層に高い増殖能を持つ細胞が出現することを見出しました。マイクロアレイ解析とcKOマウスの形質解析により、転写因子であるTbx3が、妊娠期腹側表皮の基底細胞の増殖と皮膚拡張に必須であることを明らかにしました。このTbx3陽性細胞は、表皮幹細胞が基底膜に対して水平に非対称分裂あるいは対称分裂分化することにより産生され、Tbx3陽性細胞がさらに水平分裂を繰り返すことにより、妊娠期の急速な表皮拡張を可能にしていることが分かりました。さらに、妊娠期には、真皮に存在する-SMA/Vimentin陽性細胞が、分泌タンパク質であるSfrp1、Igfbp2を分泌することで表皮幹細胞の増殖、分化を促進することを明らかにしました。Tbx3陽性細胞は、創傷時においても基底層に出現して創傷治癒を促進すること、Sfrp1、Igfbp2を注射することで、創傷治癒が促進されることを示しました。
 本研究により、表皮幹細胞から産生される、増殖性の高い新規の細胞系譜の存在が明らかとなりました。この細胞系譜は、妊娠期の皮膚拡張や創傷治癒に必須であったことから、皮膚の拡張時に重要な役割を果たすと考えられます。表皮幹細胞から増殖性細胞系譜への遷移は、真皮の分泌因子によって制御可能であることから、再生医療やアンチエイジングへの応用展開につながると期待しています。
 本研究は、京都大学大学院医学研究科皮膚科学講座との共同利用・共同研究による成果です。