京都大学 ウイルス・再生医科学研究所

大脳新皮質発生過程におけるニューロン産生・グリア産生の移行タイミングの制御機構の解明

BANSOD Shama1, 2, 影山龍一郎1, 2, 3, 4, 大塚俊之1, 2, 3

1京都大学ウイルス・再生医科学研究所増殖制御システム分野、2京都大学大学院医学研究科、3 京都大学大学院生命科学研究科発生動態学、4京都大学物質・細胞統合システム拠点)

Hes5 regulates the transition timing of neurogenesis and gliogenesis in mammalian neocortical development

Development  (2017) 144, 3156-3167. doi: 10.1242/dev.147256.

概要

 哺乳動物の大脳新皮質発生過程においては、まず神経幹細胞から深層ニューロン、続いて浅層ニューロンが順に産生され、ニューロン産生が終了後にグリア産生に移行する。こうしたニューロン・グリア分化の移行タイミングは、脳のサイズや細胞構成を決定する上で重要である。
 本研究では、大脳新皮質発生過程の神経幹細胞における遺伝子発現を任意の時期に制御可能なTet-Onシステムを用いたトランスジェニック(Tg)マウスを作製し、Hes5の強制発現が脳の形態形成およびニューロン・グリア分化に及ぼす影響を解析した(図1)。Hes5強制発現マウスにおいては、神経幹細胞からのニューロン分化抑制による神経幹細胞維持効果が確認され、マウス胎児脳における脳室拡大とそれに伴う脳室周囲帯の拡張が認められた(図2)。大脳新皮質領域におけるニューロン分化およびグリア分化のタイミングの詳細な解析(birth date analysis)を行ったところ、深層ニューロン産生から浅層ニューロン産生への移行タイミングが早まり、ニューロン産生からグリア産生への移行もより早期に見られた(図3)。逆にHes5ノックアウト(KO)マウスにおいては、深層ニューロン産生から浅層ニューロン産生への移行、およびニューロン産生からグリア産生への移行タイミングがいずれも遅延していた(図3)。
 こうした移行タイミングの制御において、Polycomb group complexやHmga遺伝子が重要な働きをしていることが知られているため、Hes5強制発現マウスおよびHes5 KOマウスにおける各遺伝子の発現を調べたところ、特にHmga遺伝子の発現変化が顕著に認められた。Hes5強制発現マウスの大脳新皮質領域においてはHmga遺伝子の発現が減少していたが、Hes5 KOマウスにおいては逆に発現が増加していた。そこで、Hes5の発現レベルがHmga遺伝子の発現レベルを制御する可能性を検証するため、Hmga遺伝子(Hmga1, Hmga2)のプロモーター領域を用いてレポーターアッセイを行い、Hes5の発現がHmgaプロモーター活性を抑制することを確認した。
 大脳新皮質発生過程において、Hes5の発現が徐々に増加するのに対して、Hmga遺伝子の発現は経時的に減少を続ける。今回の結果から、Hes5の発現レベルがHmga遺伝子の発現レベルを制御することにより、ニューロン・グリア分化の移行タイミングを制御している可能性が示唆され、哺乳動物の大脳新皮質発生過程においてHes5の発現が適正レベルに維持され、その経時的な発現変化が厳密に制御される必要性が示唆された。

※ 本研究成果は、科学技術振興機構CREST、科学研究費の支援によって得られた研究成果である。

      図1 Hes5強制発現Tgマウスの作製

      図2 Hes5強制発現マウスの脳形態

      図3 Hes5強制発現Tgマウス・野生型マウス・Hes5 KOマウスにおけるHmga遺伝子の発現レベルとニューロン・グリア分化の移行タイミング