京都大学 ウイルス・再生医科学研究所

Satb1による炎症性Tヘルパー細胞の機能制御の仕組みを解明

安田圭子1,2,3、北川瑶子2、川上竜司2、猪阪善隆3、渡邊仁美1、近藤玄1、Terumi Kohwi-Shigematsu4、坂口志文1,2、廣田圭司1,2

(1京都大学 ウイルス・再生医科学研究所、2大阪大学 免疫学フロンティア研究センター、3大阪大学大学院 医学研究科 腎臓内科学、4カリフォルニア大学サンフランシスコ校)

Satb1 regulates the effector program of encephalitogenic tissue Th17 cells in chronic inflammation”

Nature Communications (2019) doi.org/10.1038/s41467-019-08404-w

 

 

概要

インターロイキン(IL)-17を産生するTヘルパー(Th17)細胞は多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、炎症性腸疾患などの自己免疫疾患発症および慢性化に関わる炎症性T細胞である。これまでTh17細胞の分化経路に関わる多くの仕組みが明らかになってきたが、炎症組織の中で特異的に働く機能制御メカニズムについては未だ不明な点が多い。
本研究では、遺伝子発現を制御する分子Satb1がTh17細胞の分化、機能に果たす役割についてTh17条件特異的遺伝子改変マウスを作製することで詳細な解析をおこなった。自己免疫疾患の炎症組織に浸潤しているTh17細胞は、強い炎症性サイトカインであるIL-17やGM-CSF(Granulocyte Macrophage colony-stimulating Factor:顆粒球単球コロニー刺激因子)を産生し炎症の増悪化に関与している。多発性硬化症のマウスモデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎を起こしたマウスのリンパ節、脳脊髄のTh17細胞を解析すると、Satb1は脳脊髄のエフェクターTh17細胞特異的にGM-CSF、免疫チェックポイント分子の一つPD-1の発現をコントロールすることで自己免疫疾患の増悪化を担っていた。GM-CSFとPD-1のエンハンサー領域にSatb1の直接的な結合箇所は存在しないが、GM-CSF発現を高める転写因子Bhlhe40のエンハンサー領域にSatb1が結合することで、Bhlhe40の発現上昇を介してGM-CSF産生を増加させた。一方、Satb1はTh17細胞の分化の仕組みや腸管内に存在するTh17細胞の機能に必要な分子ではなかった。したがって、Satb1の遺伝子発現に加え、炎症状態などの組織特異的な微小環境因子(サイトカインバランス)の影響下においてのみSatb1は自己免疫性Th17細胞のエフェクター機能を発揮させることが示唆された。
本研究成果を基盤としたSatb1を標的とした炎症性Th17細胞のエフェクタープログラムの免疫学的制御法の開発により、Th17細胞が関わる多発性硬化症を含む多くの自己免疫疾患に対する新規治療戦略になりうることが期待できる。