京都大学 ウイルス・再生医科学研究所

2019年1月11日に京都大学ウイルス・再生医科学研究所第3回個体の中の細胞社会学ワークショップを開催しました。

京大ウイルス再生研の廣田圭司氏は、「炎症組織の細胞社会学」として、炎症組織内での病的なT細胞の免疫応答、そして、慢性炎症に寄与する細胞間の制御機構について講演した。Th17細胞の分化機序、この細胞の細胞可塑性とTh1様細胞への分化転換、そして、自己免疫性関節炎の自然発症モデルマウスであるSKGマウスの解析結果が紹介された。その解析から、Th17細胞の関与、それに加えてGM-CSFを産生する自然免疫リンパ球(ILC2細胞)の役割が見出された。東大医学系研究科の小松紀子氏は、「Foxp3+細胞の分化可塑性と病理学的意義の解明」として、Foxp3+T細胞のなかでCD25lowの細胞が、IL-6によりTh17細胞(exFoxp3Th17細胞と命名)へ分化転換し、関節炎と骨破壊を惹起する関節炎の病原性T細胞となることを見出した。一方、同じ細胞が、歯周炎モデルマウスでは、骨破壊を誘導することで口腔内細菌を排除して防御免疫にも寄与していることも見出し、このユニークな遺伝子発現パターンを示すT細胞サブセットの新たな病理的意義について紹介した。阪大免疫学フロンティア研究センターの佐藤荘氏は、「疾患特異的マクロファージの機能的多様性」として、マクロファ-ジのサブタイプ解析の結果、Jmjd3依存性に分化するアレルギ-関与マクロファ-ジ、ならびにTrib1依存性に分化するメタボリック異常関与マクロファ-ジサブタイプを突き止めた。さらに 肺線維症誘導マクロファ-ジサブタイプとして顆粒球様構造を有するSatM(segregated-nucleus-containing atypical monocyte)を発見した。この細胞は、M-CSFに反応して骨髄内に局在する細胞が、炎症後の繊維化段階において肺実質に遊走し、その繊維化を成立させる細胞である。未知の疾患特異的なマクロファ-ジの同定というきわめてユニークな発見である。慶應大医学部の新幸二氏は、「口腔由来クレブシエラ菌による腸管炎症誘導」として、腸内細菌叢の細菌種の多様性喪失のための病原菌の異常増殖状態である“dysbiosis”について講演した。無菌マウスへの接種実験から、氏はクローン病患者の口腔内細菌(Klebsiella pneumonia 2H7株)の腸内定着により、強いTh1細胞の活性化が引き起こされ、腸管組織の炎症反応が誘導されること見出した。口腔由来菌の腸管内定着による細菌叢の変化が生じ、特定の細菌が直接的に病原性を発揮する例であり、免疫学的にきわめて重要である。東大理学系研究科の西増弘志氏は、「Structure, Mechanism & Engineering of CRISPR-Cas9」として、構造生物学としての細菌免疫機構のCRISPR-Cas の分子解析例として、Streptococcus pyogenes由来のCas9とガイドRNA-標的DNA複合体の結晶構造解析結果を初めて示した。ゲノム編集の詳細なメカニズム解析とその分子改変という新たな展開に道を開いた画期的な仕事である。阪大免疫学フロンティア研究センターの鈴木一博氏は、「リンパ器官における交感神経と免疫細胞のクロストーク」として、リンパ器官に投射する交感神経が免疫細胞の体内動態に及ぼす影響についての解析結果を紹介した。氏は交感神経からのノルアドレナリンの入力がリンパ球のリンパ節からの脱出を抑制することを見出すとともに、この仕組みが免疫応答の日内変動の形成に寄与することを示した。神経系と免疫系のクロストークの観点から、われわれの生体防御機構の進化的意義を示唆する発見である。