京都大学 ウイルス・再生医科学研究所

平成29年11月22日に京都大学ウイルス・再生医科学研究所第2回個体の中の細胞社会学ワークショップを開催しました。

「個体の中の細胞社会学」は、生命現象の本体を明らかにする研究課題として、平成28年10月に統合新研究所として発足したウイルス・再生医科学研究所が取組み始めた課題です。そこで、平成29年11月22日に京都大学楽友会館2階講演室で、第2回個体の中の細胞社会学ワークショップを開催しました。当日は、開研究所所長からの本研究所が「個体の中の細胞社会学」に取組む経緯についての紹介に続いて、海外からの3人の日本人研究者に加え、千葉大学、秋田大学、新潟大学のそれぞれの研究者による合計6つの講演がありました。まず、メイヨークリニック附属医大・大学院の池田靖弘先生より、膵ベータ細胞の再生のための新手法についてのお話がありました。ベータ細胞に特異的に遺伝子発現が可能なアデノ随伴ウイルスベクター(AAVベクター)を作製し、ベータ細胞にのみ外来抗原を導入した際に見られる免疫損傷作用とベータ細胞の再生反応経過について紹介され、膵島周囲pericyteのnestin陽性細胞がベータ細胞の再生に関わることを明らかにされました。自己免疫反応が主因であるI型糖尿病に対する新規治療分子が見いだせる可能性が考えられます。次に、千葉大学皮膚科の中村(松岡)悠美先生からは、アトピー性皮膚炎についてのお話がありました。アトピー性皮膚炎は先進国に非常に多いアレルギー疾患です。この原因として黄色ブドウ球菌の皮膚への感染が主因と疑われていますが、細菌側の問題としてIL-17が関わる炎症を誘導する外毒素ならびに皮膚への定着に関わる細菌そのものの遺伝子領域の欠損を見出されました。次に、デューク大学の篠原眞理先生からは神経組織の自己免疫疾患には、インフラマソームに依存するtype Aとインフラマソームに依存しないtype Bがあり、前者ではROSの活性化による炎症が主役であるが、後者ではセマフォリン6Bを遊離する比較的少数のCD4陽性T細胞がその主役を担い、進行性の脱髄が見られることを話されました。秋田大学の久場敬司先生からは、ATP代謝過程の解析研究からmRNAの分解過程に関わるCCR4-NOTといわれるタンパク質複合体の機能解析についての紹介があり、この分子が核酸代謝の際のセンサーとなり、心筋の機能維持を担っていることが紹介されました。ドイツマックスプランク研究所の久保郁先生からは、ゼブラフィッシュを使った運動視覚における神経活動の解析研究が紹介されました。オプティックフローといわれる動物が移動時に視野全体がこの移動方向とは反対方向に流れるように動く視覚情報の処理に、視蓋前野(prefectum)が関わること、そして、感覚情報の処理に関わるとされていたprefectumが運動パターン情報処理に関わることをつきとめられました。さらにCaイメージングと電子顕微鏡解析を統合したコネクトーム解析を進められていることを紹介されました。新潟大学の上野将紀先生からは、脊髄障害後の神経回路の再編について神経回路の順行性ならびに逆行性のトレースにそれぞれ異なるウイルスを使ってマウスにその機能回復までの解析研究を行われて、神経線維の末端から伸びる突起が成長する発芽(sprouting)が神経再生の本体であることを紹介されました。脊髄損傷後に皮質脊髄路であるcorticospinal tract (CST)の再編が起きることが知られていましたが、これには複数の異なる回路があること、機能的に精緻な回路の回復にはどのような分子が必要か議論されました。最後に河本研究所副所長より、「再生・免疫・代謝・神経のそれぞれの研究領域が今まさに連結してきましたね」と閉会の挨拶がありました。6人の講演者の最先端研究のお話しを聞いて、聴衆は研究内容の深化を実感しました。

開所長