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2020年1月14日
分節時計における同期発現振動の制御機構を解明

分節時計における同期発現振動の制御機構
―適切な時間遅れが同期を促進する―

吉岡久美子1,2、松宮舞奈1,3、新野祐介4、磯村彰宏1,5、郡宏6、宮脇敦史4、影山龍一郎1,2,3,5

(1 京都大学ウイルス・再生医科学研究所、2 京都大学大学院医学研究科、3 京都大学生命科学研究科、4 理化学研究所 脳神経科学研究センター、5京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)、6 東京大学大学院)

”Coupling delay controls synchronized oscillation in the segmentation clock”
Nature (2020) DOI: 10.1038/s41586-019-1882-z

概要

京都大学ウイルス・再生医科学研究所影山龍一郎教授、吉岡久美子同教務補佐員、松宮舞奈生命科学研究科博士課程学生(研究当時、現:欧州分子生物学研究所 研究員)、物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)磯村彰宏特定助教らの研究グループは理化学研究所、東京大学の研究者と共同で、マウスの分節時計における細胞間で同期した遺伝子発現振動に、細胞間シグナル伝達の時間遅れの調節が重要な役割を果たすことを明らかにしました。
脊椎動物の発生期に、背骨・肋骨などの「節目」構造の元となる、体節と呼ばれる組織が周期的に形成されます。この形成周期を制御する機構は分節時計と呼ばれ、Hes7遺伝子の発現振動を中心とした機構により制御されています。Hes7の振動タイミングは細胞間で同期することで組織レベルのダイナミクスが生み出されますが、この同期が規則正しい分節構造の形成に重要であると考えられています。しかし、マウスの胚において実際に個々の細胞におけるHes7の振動を観察することが困難であり、同期の詳細な分子機構は明らかにされていませんでした。
本研究では、新規の蛍光タンパク質Achillesを用いたレポーターマウス胚のライブイメージングにより、Hes7の発現量を一細胞レベルで定量し、個々の細胞での振動位相を可視化することに成功しました。この系を用いて、糖転移酵素をコードするLunatic fringe遺伝子がシグナルの伝達に時間遅れを生み出し、同期を促進することを明らかにしました。
この成果は、先天性側弯症などの遺伝疾患の発生機構や、自然界に普遍的に見られるリズム現象と同期機構の理解につながると期待されます。本成果は、2020年1月8日に英国の国際学術誌「Nature」にオンライン掲載されました。