京都大学 ウイルス・再生医科学研究所

幹細胞からの肢芽組織への自己組織化

森俊介1,2、坂倉永理子1、恒川雄二3、萩原将也4、鈴木孝幸5、永樂元次1,6

(1 京都大学ウイルス・再生医科学研究所発生システム制御分野、2 Department of Genetics, Rutgers, The State University of New Jersey、3 理化学研究所生命機能科学研究センター非対称細胞分裂研究チーム、4 理化学研究所萩原生体模倣システム理研白眉研究チーム、5 名古屋大学大学院生命農学研究科鳥類バイオサイエンス研究室、6 京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点)

 

Self-organized formation of developing appendages from murine pluripotent stem cells

Nature Communications (2019) doi.org/10.1038/s41467-019-11702-y

概要

本研究では多能性幹細胞から試験管内において四肢の原基である肢芽組織への自己組織化を誘導する手法を確立しました。
四肢の発生は体幹から肢芽と呼ばれる突起状の構造が形成されることから始まります。肢芽は体表を覆う表皮外胚葉と側板中胚葉由来の間葉系細胞の2種類の細胞から構成されます。近年、多能性幹細胞などの幹細胞から試験管内で機能的な組織を誘導するオルガノイドと呼ばれる技術が盛んに研究されていますが、肢芽のように複数の胚葉由来の組織を試験管内で誘導することは困難でした。今回我々は、マウス多能性幹細胞(ES細胞)の胚葉体に表皮外胚葉と側板中胚葉を同時に誘導することで世界で初めて肢芽様組織の試験管内誘導に成功しました。我々はこれまでに、網膜や大脳組織などの外胚葉性の神経組織をマウスおよびヒト多能性幹細胞から誘導する方法論(SFEBq法)を開発してきました。今回はSFEBq法を中胚葉誘導に拡張することで側板中胚葉と外胚葉組織を1つの胚葉体に誘導することを目指しました。その結果、側板中胚葉組織誘導と表皮外胚葉形成のどちらにも関与するBMPシグナルでES細胞を刺激することで肢芽様組織の誘導に成功しました。ES細胞由来の肢芽様組織は、発生過程の肢芽とよく似た遺伝子発現パターンを示しました。また、体幹の前後軸パターンに関与するレチノイン酸シグナルを制御することで、前肢になる前方肢芽と後肢になる後方肢芽へと選択的に誘導できることも示しました。さらに、人為的に局所的な背腹軸シグナルを与えることで、肢芽先端部に形成される指パターン形成のオーガナイザーである外胚葉性頂堤(AER)の誘導にも成功しました。最後に、ES細胞由来の肢芽様組織は発生過程のマウス肢芽に移植することで、正常な四肢形成を阻害することなく軟骨組織および結合組織へと分化することがわかり、ES由来の肢芽様組織が四肢を形成できる能力を有していることが示されました。
今後は、ヒト多能性幹細胞にこの技術を応用し、ヒトの肢芽様組織を試験管内で誘導する技術を確立するとともに、損傷した四肢の再生に貢献できる可能性を探りたいと考えています。