京都大学 ウイルス・再生医科学研究所

MHCクラス1分子 – リポペプチド – T細胞受容体複合体のX線結晶構造の解明

森田大輔1,2、岩下智江里1,2、水谷龍明1,2、森直樹3、三上文三4、杉田昌彦1,2 (1京都大学ウイルス・再生医科学研究所細胞制御分野、2京都大学生命科学研究科高次細胞制御学分野、3京都大学農学研究科化学生態学研究室、4京都大学農学研究科応用構造生物学分野)

Crystal structure of the ternary complex of TCR, MHC class I and lipopeptides

International Immunology (2020) doi: org/10.1093/intimm/dxaa050

概要

ミリスチン酸修飾反応はタンパク質のN末端Gly残基に炭素数14の飽和脂肪酸であるミリスチン酸を付加する翻訳後修飾の一つです。例えば、ヒト/サル免疫不全ウイルス(HIV/SIV)が持つnefタンパク質は、宿主の反応系を利用して、このミリスチン酸修飾を受けることにより、免疫抑制タンパク質としての機能を発揮します。これに対して、ミリストイル化を受けた4-5残基長のウイルスペプチド、すなわち「リポペプチド」を結合し、CD8陽性キラーT細胞へと提示する新しいMHCクラス1分子サブセットが存在します(Morita et al. Nat. Commun. 2016 and Yamamoto et al. J. Immunol. 2019)。これは、「MHCクラス1分子は病原体に由来する8-10残基長のペプチド抗原を結合し、T細胞への抗原提示を担う」という従来の概念とは一線を画すものです。しかしながら、T細胞がどのようにしてペプチド長の短いリポペプチドを認識しているのか、その分子実体は不明でした。

そこで、我々はアカゲザル由来のリポペプチド提示MHCクラス1分子であるMamu-B*05104に着目しました。Mamu-B*05104はSIV nef由来の4-merリポペプチド抗原(14nef4, C14-Gly1-Gly2-Ala3-Ile4)を結合し、特異的なT細胞(SN45)を活性化することが出来ます。本研究では、C14nef4リポペプチド結合Mamu-B*05104とSN45 T細胞受容体(TCR)の各リコンビナントタンパク質を調製し、その共結晶構造を解き明かしました(図A)。意外なことに、SN45 TCRは主にミリストイル化Gly1残基との相互作用によって、リポペプチド抗原を認識していました。一方で、他のペプチド部分(Gly2-Ala3-Ile4)との相互作用は観察されませんでした(図B)。この認識様式は、多数のアミノ酸残基がT細胞応答に関わるペプチド抗原とは異なるものであり、全く新しいT細胞認識メカニズムです。また、ミリストイル化Gly1残基は全てのリポペプチド抗原に共通する構造であることから、リポペプチド特異的T細胞による自己と非自己の識別は理論上、困難です。ウイルス感染に伴い、自己免疫が増悪することは良く知られた事実ですが、その分子機序は殆ど不明です。リポペプチド特異的T細胞が誤って自己を攻撃してしまうことがその一因となっている可能性があり、リポペプチド免疫を標的とした新たな治療戦略の確立が期待されます。

 

図. *05104 – C14nef4 – SN45 TCR共結晶構造解析

(A) Mamu-B*05104 – C14nef4 – SN45 TCR複合体の全体構造(解像度2.8Å)。(B) リポペプチド免疫認識のモデル図(破線は水素結合)。SN45 T細胞はTCRbeta101番目のグルタミン酸残基を介して、ミリストイル化Gly1残基のアミド結合を認識している。一方、他のペプチド部分との間に実質的な相互作用は観察されない。