京都大学 ウイルス・再生医科学研究所

Hes1による胎児脳神経幹細胞プールおよび成体脳幹細胞リザーバー拡張機能の解明

大塚俊之1,2,3、影山龍一郎1,2,3,4(1京都大学ウイルス・再生医科学研究所 生命システム研究部門 増殖制御システム分野、2京都大学大学院医学研究科、3京都大学大学院生命科学研究科 統合生命科学専攻 発生動態学分野、4京都大学物質-細胞統合システム拠点 (iCeMS))

Hes1 overexpression leads to expansion of embryonic neural stem cell pool and stem cell reservoir in the postnatal brain

Development (2021) Feb 17;148(4): dev189191. doi: 10.1242/dev.189191.

概要

我々はTet-Onシステムを用いて脳の神経幹細胞/前駆細胞における遺伝子発現を制御可能なトランスジェニックマウスを作製し、各種遺伝子の機能を解析しています。今回はNotchシグナルのエフェクターであるHes1を高発現するマウスを作製し、脳の形態形成における機能を解析しました(図1A, B)。このマウスではHes1の神経分化抑制機能によりニューロン産生が抑制され、胎児脳の神経幹細胞が顕著に増加し脳室拡大が認められました。また、深層ニューロン産生から浅層ニューロン産生への移行タイミング、グリア産生のタイミングが早まっている一方、浅層ニューロン産生時期が延長していました。

興味深いことに、Hes1の高発現により、哺乳類の脳の進化に寄与したとされるbasal radial glial cell (bRGC) の増加が認められ、Notch-Hesシグナルの活性化が脳の進化に寄与した可能性が示唆されました(図1C)。

さらにHes1高発現マウスでは、生後から成体の脳においても神経幹細胞が多く維持されており、Hes1発現をオフにしてニューロン分化抑制を解除することで、活発なニューロン新生が起こることが確認されました(図1D)。

この成果は、哺乳動物の脳発生・脳進化メカニズムの解明につながるとともに、成体脳における神経再生医療の新たな戦略を提供することが期待されます。

 

図:Tet-Onシステムを用いたHes1高発現トランスジェニックマウスの作製と解析

(A) 神経幹細胞/前駆細胞における遺伝子発現を制御可能なトランスジェニックマウス作製に用いたトランスジーンの概略図。Dox:ドキシサイクリン(B) Hes1高発現マウスの脳におけるGFPの発現(矢頭)。(C) Hes1高発現マウス (Tg) におけるbRGCの増加(矢印)。pVim:分裂期のRGCのマーカー。Pax6:胎生期神経幹細胞のマーカー。(D) Hes1高発現マウス (Tg) の成体脳における新生ニューロン (Dcx;BrdU二重陽性細胞) の増加。