京都大学 ウイルス・再生医科学研究所

細胞内ゲノム合成の場について 2020年11月4日

クライオ電子顕微鏡で感染細胞内の分子構造を可視化することで、新型コロナウイルスの細胞内ゲノム合成の場となる膜小胞上に小胞内外を繋ぐ分子トンネルが形成されることが明らかになりました (1) 。この分子トンネルの存在によって、小胞内で合成されたRNAが細胞質へと輸送され、子孫ウイルス粒子形成の場へと移行するメカニズムが説明できるようになるかもしれません。

コロナウイルスは1本鎖プラス鎖RNAをゲノムとするRNAウイルスです。多くのRNAウイルスは細胞に感染した後、細胞質内で自身のゲノムRNAを複製します。コロナウイルスの場合、ウイルス非構造タンパク質 (Nsp)が小胞体膜を利用して二重膜小胞 (Double Membrane Vesicle, DMV)を形成します。二重膜小胞内には合成中のゲノムRNAと考えられる2本鎖RNAが検出されることから、この内部でゲノムRNAが複製されると考えられています。しかし、二重膜小胞の内外を繋ぐような分子構造は発見されておらず、複製されたゲノムRNAがどのように輸送されているのか不明なままでした。Wolffらは、感染細胞の二重膜小胞上にNsp3が構成する分子トンネルが存在することを発見し、その構造を明らかにしました (1) 。この分子トンネルはRNAの通過が可能な直径2-3 nmの孔を持ち、小胞内で合成されたゲノムRNAを細胞質へと輸送する構造であると筆者らは考察しています。この分子トンネルの発見から下図のように二重膜小胞内で合成されたゲノムRNAを細胞質へと輸送し、子孫ウイルス粒子形成の場までの輸送経路が説明できるため、コロナウイルスの増殖機構の解明に大きく貢献する成果となっています。

一方で同時期に発表された論文では、ウイルスゲノムRNAそのものは二重膜小胞の内部では頻度よく検出されず、小胞膜上や細胞質側で多く検出されています (2) 。また、今回発見された分子トンネル孔は狭く、RNAは通過できるものの多くの蛋白質は通過できません。ゲノムRNA合成に必要な核タンパク質 (N) (3) をまとったRNA-核タンパク質複合体(RNP)も細胞質側にのみ観察されています (1) 。これを踏まえると、二重膜小胞の内部はゲノムRNA合成の場ではなく、2本鎖RNAを細胞質側から取り込み免疫システムから隠す格納庫である可能性も指摘されます (4) 。今回の成果で新たなコロナウイルスの増殖機構の示唆が得られましたが、真のゲノム合成の場を決定するにはさらなる検証が必要です。(文責 宮本翔(学振PD)/野田岳志)

参考文献

  1. Wolff et al. A molecular pore spans the double membrane of the coronavirus replication organelle. Science. 2020. DOI: 10.1126/science.abd3629.
  2. Snijder et al. A unifying structural and functional model of the coronavirus replication organelle: Tracking down RNA synthesis. PLoS Biology. 2020. DOI: 10.1371/journal.pbio.3000715.
  3. Almazán et al. The nucleoprotein is required for efficient coronavirus genome replication. Journal of Virology. 2004. DOI: 10.1128/JVI.78.22.12683-12688.2004.
  4. Klein et al. SARS-CoV-2 structure and replication characterized by in situ cryo-electron tomography. bioRxiv. 2020. DOI: 10.1101/2020.06.23.167064.