京都大学 ウイルス・再生医科学研究所

新型コロナウイルス抗原について 2020年11月5日

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のウイルス表面にあるSpike(S)蛋白質は、ウイルスと受容体の結合を担っており、宿主域の決定という点で極めて重要な役割を果たします。同時に、このS蛋白質は我々ヒトの獲得免疫系がSARS-CoV-2を認識して、液性および細胞性免疫応答を起こす際に極めて重要な役割を果たす分子でもあります。特に抗体がS蛋白質のどこを認識して中和能を発揮するかということは、ワクチン開発や抗体医薬等の予防・治療法開発に重要な情報となります。

SARS-CoV-2 S蛋白質の構造解析結果(Cryo-EM structure of the 2019-nCoV spike in the prefusion conformation. Wrapp et al., Science 367, 1260–1263, 2020)があります(図1)。S蛋白質は3量体を形成しており、宿主のタンパク質分解酵素であるfurinによる開裂を受ける塩基性のアミノ酸配列を有しています。furin解列後は受容体結合能を担うS1サブユニットと膜融合能を担うS2サブユニットに別れます。SARS-CoV-1 S蛋白質はfurinによる開裂を受けるアミノ酸配列を有していないため、この特性は両者の大きな違いです。さらに、S2サブユニットは宿主の別のタンパク質分解酵素であるTMPRSS2等による開裂を受け、膜融合に必須の機能を担うfusion peptideの直前のアミノ酸配列が切断されることで、細胞侵入の準備を整えた活性状態になります。

SARS-CoV-2 S蛋白質は、細胞上に発現しているACE2(angiotensin-converting enzyme 2)を認識して結合します。このS蛋白質上のACE2結合部位はRBD(receptor binding domain)と呼ばれ、“コロナウイルスのRBDは構造的にup (open)”と“down (closed)”の状態をとることが過去のコロナウイルスの研究からわかっています(Unexpected Receptor Functional Mimicry Elucidates Activation of Coronavirus Fusion. Walls AC. et al.Cell 176, 1–14, 2019)。

そして、コロナウイルスの種類によって、RBDの“up”と“down”の状態が異なっており、SARS-CoV-2 S蛋白質は、3量体のRBDが1 up, 2 downの状態が主な配向であることが報告されています。このupとdownの状態は、春以降に世界的に優勢となったS蛋白質変異体であるD614GのSARS-CoV-2では”up” 配向が多くなり感染性が増すことも報告されていますが、症状の強さや中和抗体に対する感受性とは相関しないとされています(Tracking Changes in SARS-CoV-2 Spike: Evidence that D614G Increases Infectivity of the COVID-19 Virus. Korber B et al. Cell. 182(4):812-827. 2020)。執筆時点では、RBDに対する中和抗体の結合部位によって、中和抗体は4つのクラス(class 1 -4)に分類できることが提唱されており(図2)、ACE2受容体結合部位により近いエピトープのclass 1と2に分類される抗体が強い中和能を示すとされています(SARS-CoV-2 neutralizing antibody structures inform therapeutic strategies. Barnes CO et al. Nature. 2020 doi: 10.1038/s41586-020-2852-1.)。

最後に、SARS-CoV-1とSARS-CoV-2のS蛋白質を比較すると、受容体は同じACE2を使用しますが、SARS-CoV-2 S蛋白質の方が高い親和性でACE2に結合します。SARS-CoV-1は宿主のタンパク質分解酵素であるfurinによる開裂を受けませんが、SARS-CoV-2は開裂を受けます。SARS-CoV-1とSARS-CoV-2では、それぞれに対する多くの抗体が交差しないため、抗原性は異なるとされています。
(文責 橋口)