京都大学 ウイルス・再生医科学研究所

新型コロナウイルスの抗体による感染増強 (ADE) について 2020年11月13日

新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) のエンベロープ上には糖鎖修飾されたスパイク(S)タンパク質が存在します。Sタンパク質は感染受容体ACE2と結合し、SARS-CoV-2の細胞への侵入を媒介します。また、Sタンパク質はヒトの獲得免疫系により認識され、免疫応答を起こす際に重要な分子でもあります。Sタンパク質の受容体結合部位 (Receptor Binding Domain : RBD) を認識するいくつかの抗体は、SARS-CoV-2とACE2受容体間の結合を干渉し、感染を阻害します (1)。しかし、RBDに対する抗体全てが感染を阻害するとは限りません。SARS-CoV-2の抗Sタンパク質抗体の中には逆に感染を増強させるものもあります (2 3)。抗体による感染増強はADE (Antibody-Dependent Enhancement) と呼ばれ、デングウイルスやエボラウイルス、既知のコロナウイルス (SARS-CoV-1やMERS-CoV) などでもADEが起こることが知られていました。SARS-CoV-2は通常、ACE2を発現しない免疫系細胞には感染しません。しかし、抗体がウイルス粒子表面のSタンパク質に結合し、抗体のFc領域と免疫系細胞のFc受容体FcγR II (CD32) が結合することで、免疫系細胞への感染を成立させます。

クライオ電子顕微鏡によるSARS-CoV-2のSタンパク質とADEもしくは中和モノクロ―ナル抗体との複合体構造解析の結果、Sタンパク質のRBDは抗体毎に異なる結合モードを取ることが報告されました (2)。通常、Sタンパク質の3量体のRBDは1 up、2 downの状態が主な配向であることが報告されています (4)。一方、中和モノクロ―ナル抗体が結合したSタンパク質の3量体のRBDは3 up、ADEモノクロ―ナル抗体が結合したSタンパク質の3量体のRBDは通常時と同じ1 up、2 downの状態でした。また、この中和モノクロ―ナル抗体は3つ全てのRBDに抗体が結合していたのに対し、ADEモノクロ―ナル抗体は1つのdown状態のRBDに結合していませんでした。RBDへの異なる結合パターンがADEを引き起こす可能性が示唆されましたが、SARS-CoV-2のADE抗体の報告数はまだ少なく、詳細なメカニズムについてさらなる検証が必要です。SARS-CoV-2のADEがどのようなメカニズムで起こるのか、中和抗体との結合モードの違いはどこにあるのか、これらを理解することはCOVID-19感染症の制御のためのワクチン開発や中和抗体を用いた治療薬の開発研究に重要な知見となります。(文責 祝部和也(D1)/野田岳志)

  • Yang, J. et al. A vaccine targeting the RBD of the S protein of SARS-CoV-2 induces protective immunity. Nature, doi:10.1038/s41586-020-2599-8 (2020).
  • Wu, F. et al. Antibody-dependent enhancement (ADE) of SARS-CoV-2 infection in recovered COVID-19 patients: studies based on cellular and structural biology analysis. medRxiv, doi:10.1101/2020.10.08.20209114 (2020).
  • Wang, S. et al. An antibody-dependent enhancement (ADE) activity eliminated neutralizing antibody with potent prophylactic and therapeutic efficacy against SARS-CoV-2 in rhesus monkeys. bioRxiv, doi:10.1101/2020.07.26.222257 (2020)
  • Wrapp, D. et al. Cryo-EM structure of the 2019-nCoV spike in the prefusion conformation. Science, doi:10.1126/science.abb2507 (2020)