京都大学 ウイルス・再生医科学研究所

レムデシビルの作用機

2020年10月22日、アメリカの食品医薬局 (FDA) は、抗ウイルス薬「レムデシビル」を新型コロナウイルス感染症COVID-19の初の治療薬として正式に承認しました。本邦でも厚生労働省がCOVID-19治療での使用を特例で承認しています。

DNAやRNAの構成材料である核酸と類似の構造を持ち、ゲノムの転写・複製を担うポリメラーゼの機能を阻害してウイルス増殖を抑制する薬を「核酸アナログ製剤」と呼びます。レムデシビルはプロドラッグ (前駆体)であり、細胞内でリン酸化され、抗ウイルス活性を有する核酸アナログとなります。元来、レムデシビルはエボラ出血熱やマールブルグ出血熱の治療薬として開発されましたが、後にコロナウイルス科を含む一本鎖RNAウイルスに対しても抗ウイルス活性を持つことが明らかになりました1。

クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析により、SARS-CoV-2のRNA依存性RNAポリメラーゼ (RdRp) と活性型レムデシビル (三リン酸型レムデシビル) の複合体の構造解析結果が報告されました2。SARS-CoV-2 RdRpの主要構成因子はnsp12タンパク質です。nsp7とnsp8の結合がnsp12を「閉じた」構造に保つことで、RdRpへの鋳型RNAの結合と新規RNA合成を促進すると考えられています。(図1)

また、鋳型RNAと新規合成RNAの二本鎖RNAがRdRpの中央にある空洞部分に挿入されていることがわかりました。この空洞内で新規合成RNA鎖の3′端に共有結合を介してレムデシビルが取り込まれることで、RNAの伸長が終結することが示唆されました。興味深いことに、三リン酸型レムデシビルとRdRpを混合してサンプルが調製されたにも関わらず、RdRp複合体中のレムデシビルは一リン酸型になっており、二リン酸であるピロリン酸が新たな核酸の付加を防ぐように存在していることも明らかになりました。 (図2)

現在のところ、COVID-19の治療薬として開発された正式な承認薬は存在しません。これらの構造情報をもとに、より強力な治療薬の設計・開発が期待されています。(文責 藤田陽子(D1)/野田岳志)

参考文献
1. Lo, M. K. et al. GS-5734 and its parent nucleoside analog inhibit Filo-, Pneumo-, and Paramyxoviruses. Sci. Rep. 7, 43395 (2017).
2. Yin, W. et al. Structural basis for inhibition of the RNA-dependent RNA polymerase from SARS-CoV-2 by remdesivir. Science 368, 1499–1504 (2020).