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2019年11月29日
葉の幅の制御から分裂組織制御まで:渓流沿い植物から始まったストーリー
日時: 2019年11月29日(金)13:30~
場所: 京都大学ウイルス再生研2号館 (旧ウイルス研本館)1階セミナー室(104)
演者: 演者:塚谷 裕一 氏
東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻
演題: 葉の幅の制御から分裂組織制御まで:
渓流沿い植物から始まったストーリー

講演要旨

植物の葉の形は多様である。その要因の一つは環境への適応であるが、実はほとんどの形態については説明できていないのが現状である(Tsukaya 2018)。そんな中、例外的にその生態的意義が明白なのが、渓流沿い植物と呼ばれる適応形質で、これは不定期的かつ一過的におきる川の増水に対して適応した狭葉化形質である。演者は学生時代に、熱帯多雨林において渓流沿い植物の進化が莫大な回数独立に起きたことを教わり、職位を得てからはその遺伝学的背景を知ろうと、シロイヌナズナを用いた葉の形態形成関連遺伝子の探索に取り組むようになった。

本セミナーではその端緒となった渓流沿い植物そのものの紹介から始め、最初に扱った細葉変異体anに触れる。ANはクローニングの結果、ヒトにも存在する転写共訳因子CtBPのホモログであることが分かり(Kim et al. 2002)、アサガオ、カラマツ、ヒメツリガネゴケ、ゼニゴケでそれぞれシロイヌナズナに導入したときに同じ機能を持つホモログの存在が確認できている。しかしショウジョウバエのdCtBPとは機能の代替ができない(Stern et al. 2007)。一方、陸上植物の基部に当たるゼニゴケの半数体世代でもシロイヌナズナ同様の機能を持つことが分かってきた(Furuya et al. 2018)。動物におけるCtBP/BARS同様、ANはタンパク質としての機能が謎に満ちている。

続いて本セミナーでは、anに似るが違うメカニズムで細葉となるan3の解析について紹介したい。AN3も転写共訳因子で、葉原基の細胞分裂を正に制御する(Horiguchi et al. 2005)。興味深いことにAN3タンパク質は細胞間を拡散し、それによって空間的勾配のある濃度分布を葉原基に形成する(Kawade et al. 2017)。その濃度分布は、葉原基における細胞分裂活性に反映され、それによって葉の原基の形作りに寄与していると考えられる。不思議なことにAN3 mRNAはシロイヌナズナでは葉肉細胞に特異的に発現し、イネでは裏側表皮で特異的に発現する。ともに細胞層間をタンパク質として拡散するのがその機能に重要である。また植物種によって葉原基における細胞分裂領域は異なるが、調べた範囲ではその分裂領域とAN3 mRNA発現領域は一致している。どうしてこのような多様化が起きたのかを知ることは、将来、葉の形態の多様化のメカニズムを理解する上で重要なヒントとなると期待される。

(言語:日本語 Language: Japanese)

 

主催 京都大学ウイルス・再生医科学研究所
世話人 数理生物学分野  望月 敦史(TEL:075-751-4612)