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京都大学医生物学研究所
所長 河本 宏

ウイルス・再生医科学研究所は、2022年4月から、医生物学研究所に改称しました。私はそのタイミングで、所長を務めることになりました。ウイルス研と再生研の統合と今回の改称に至るまでの経緯と、新しい研究所名に込められた思いを述べたく思います。

改称に至るまでの経緯
まずは経緯を概説します。ウイルス・再生医科学研究所は、2016年10月にウイルス研究所と再生医科学研究所が統合して発足しました。一般には統合という形の改組は、規模が縮小されるなどの負の要因があることが多いですが、この統合にはそうした要素はなく、発展的な統合でした。統合に際して、名称をどうするかの議論は当然ありましたが、当時のスタッフと京大の本部との話し合いの中で、当面は両研究所の名前を並べるという事になりました。統合後も新名称についての議論は続き、統合後5年半にして、今回の改称となった訳です。

統合までの歴史
統合前の両研究所は、それぞれがアカデミアの世界で確固たるプレゼンスを示してきました。ウイルス研はウイルス学のみならず分子生物学全体を、再生研は再生医学のみならず免疫学や生体工学を含めた広い領域を牽引してきました。例えばウイルス研は成人性T細胞性白血病の原因ウイルスを発見した日沼頼夫先生を、再生研はiPS細胞を発明した山中伸弥先生や、制御性T細胞を発見した坂口志文先生を輩出しています。

統合に至った背景
統合に至った背景を述べます。近年、ライフサイエンスは大きく変貌し、個々の研究室だけで行う研究で勝負するのは難しい時代になってきました。研究所として発展するためには、時代の流れの先を読み、それに応じて組織を構築し、さらにそれに合う人事を進める必要があります。統合により、そのような戦略を進めやすい規模になりました。現在所員数約300、教員数約80、教授数約20という規模です。
組織構築で言うと、統合に際して、ウイルス学と再生医学の部門に加えて「生命システム研究部門」を新設しました。また構造生物学や理論生物学を専攻する若手教授をリクルートするなど、人事にも力を入れてきました。新しい学問領域を開拓する中核となる部門です。これらは主には統合当時の各研究所の所長であった開祐司先生と小柳義夫先生のリーダーシップで進められてきました。

「医生物学」という言葉に込められた思い
さて、医生物学研究所という名前ですが、改称には多くの人が関わっており、それぞれ思いは異なると思います。ここでは、議論の中で感じた事を総括する形で、私見を軸に述べます。新研究所名は、「生物学」という言葉が入ることで、古めかしく響くと思います。そして、その響きの通り、この名称には「生物学としての視点を大事にしよう」という思いが込められていると思っています。
例えばマウスでリンパ球が起こす免疫反応の仕組みの一端を解明したとします。それがどのように病気に関わるかとか薬剤開発につながるかなどを考えるのが医学的な視点で、一方で例えばその仕組みの進化的起源を考えるのが生物学的な視点だと言えるでしょう。最近は研究活動に前者のような、いわゆる「出口」が求められがちな傾向がありますが、学問の本質は人が持つ知的好奇心へ応える事ですし、そこに根源的な面白さがあると思います。実利よりも面白さを求める研究の方が、大きな飛躍に繋がりやすいという論点もあるかと思います。

新拠点の発足
さて、ここでいわゆる「拠点」としての機能について述べます。公的な研究所の多くは、国内外の研究者に機器、施設、研究法などを提供する拠点としての機能も果たしています。制度としては「共同利用・共同研究拠点」、略して共共拠点として、国の支援を受けています。再生研とウイルス研はそれぞれ再生医療とウイルス感染症の拠点機能を果たしてきており、統合後の研究所は2つの拠点機能を維持してきました。今回の改称と時を同じくして、両拠点は統合し、「ウイルス・幹細胞システム医生物学共同研究拠点」という新拠点を発足させました。研究所の改称は簡潔にした一方で、拠点名については果たす役割を盛り込み、長くなりました。この拠点の中核となる事業として、当研究所の所員との共同研究を100万円を上限として支援する仕組みを発足し、2022年度は公募の結果として30件を採択しました。

最後に
拠点機能は刷新しましたが、前述のように、統合後に続けてきた構想は基本的にはそのまま継承し、改称に伴う大きな改組はありません。ただし、改称を機会として、所員一同で、「生物学の歴史を作ってきた研究所の一員」という当事者意識をもって、時代を先導するという使命感の下に、一丸となって邁進していきたいと考えています。