2017年度 共同研究課題達成状況 |
【1】霊長類P3感染実験として計4件の研究を行った。
1.国立感染症研究所エイズ研究センター俣野哲朗センター長とサルエイズモデルにおけるCTL の腸管感染防御能に関する研究を行った。本研究ではこれまで、各種MHC-Iハプロタイプ共有アカゲサル群を用いたSIV経静脈感染モデルを樹立し、さらに本共同研究でSIV経直腸感染モデルも樹立し、腸管粘膜感染免疫学的解析系を構築した。一方、iPS細胞由来CTL導入研究に関しては、サルCD8陽性T細胞由来iPS細胞から分化させたCD8陽性T細胞の樹立に成功し、接種細胞動態分布の解析も行った。
2.徳島大学大学院医歯薬学研究部野間口雅子教授とアカゲザルを用いたHIV-1の個体内複製機構・病原性発現機構の解析に関する研究を行った。本研究では新規に作製した組換えウイルス(HIV-1rmt)を3頭のアカゲザルに静脈内接種し、血液中のウイルス量とCD4陽性細胞数を調べた。血中ウイルス量は、一過性に3000コピー/mlまで上昇したが、その後検出限界以下まで減少した。CD4陽性細胞数に大きな変化は無かった。サルエイズモデルとしては、不十分なので今後も改善が必要であることがわかった。
3.京都大学霊長類研究所明里宏文教授とHIV-1感染症の根治を目指した新規治療戦略の確立に向けた基礎研究を行った。本研究ではサル指向性HIV-1の潜伏感染期において、①リンパ節でHIV RNAを高発現する濾胞性ヘルパーT細胞が多く存在する、②細胞性免疫並びに中和抗体が高い活性を示し、協調して制御を司っている、さらに③新規PKC activatorである10-MAおよびBET阻害薬であるJQ1の併用により、in vitroにおいて低毒性でかつ効率良いHIV-1潜伏感染細胞からの再活性化効果を示すことがわかった。
4.東京大学医科学研究所河岡義裕教授とインフルエンザウイルスの霊長類感染モデルを用いた研究を行った。本共同研究では、京都大学ウイルス研究所の霊長類P3感染実験室において、カニクイザルを用いたインフルエンザウイルスの感染実験を行い、インフルエンザウイルスの霊長類モデルにおける病原性解析、抗ウイルス薬の効果、ワクチン効果、宿主応答などを解析することを目的とする。本年度は、感染実験に使用するウイルス株の調整とその性状解析を行い、サル感染実験に向けて体制を整えた。
【2】マウスP3感染実験として計2件の研究をおこなった。
1.国立遺伝学研究所人類遺伝研究部門井ノ上逸朗教授とヒト化マウスモデルを用いたHIV-1感染病態のシステムウイルス学的解析に関する研究を行った。本研究ではHIV-1感染ヒト化マウス内のウイルス組込み部位の網羅的解析を行い、クローン性増殖した感染細胞群ではリンパ球活性化に関わる遺伝子周辺にウイルスの組込みが有意に多いことを見出した(Sci Rep 7:6913, 2017)。これに加え、HIV-1組込み部位と公開データベースのゲノム・エピゲノム情報との照合によるバイオインフォマティクス解析は施行中である。
2.京都大学医学研究科血液・腫瘍内科学高折晃史教授とヒト化マウスを用いたHIV-1 潜伏感染モデルの確立に関する研究を行った。本研究では潜伏感染細胞の検出が可能なデュアルレポーターウイルスをJurkat T細胞に感染させGFP陽性のウイルス産生分画とmCherry陽性潜伏感染分画をソートによる遺伝子発現解析系を確立した。次に初代培養T細胞を用いて条件検討をおこなっている。また、ウイルスEnv分子ナノボディ化によるウイルス中和分子作製実験については、スクリーニングが終了し、感染阻害活性を検討中である。
【3】遺伝子・細胞レベルのウイルス・生命科学研究として計17件の研究を行った。
1.富山大学大学院医学薬学研究部(医学)ウイルス学講座谷英樹准教授と組換えVSVシステムを用いた抗ラッサウイルスモノクローナル抗体の作出に関する研究を行った。本研究では抗ラッサウイルスの表面糖タンパク質GPCに対するモノクロ―ナル抗体作製のため、ラッサウイルスGPCを表面に持つ組み換えVSVシステムを構築し、マウスへの免疫抗原ならびにELISA用抗原を大量調整した。得られた抗原を利用して、現在はモノクローナル抗体のスクリーニングと性状解析を進めている。
2.大阪大学大学院医学系研究科感染症・免疫学講座本田知之准教授とRNAウイルス感染とレトロトランスポゾン活性との関連性の解析に関する研究を行った。本研究ではRNAウイルス感染とレトロトランスポゾン活性との関連性を見出すことを目的として行われた。これまでに、レトロトランスポゾンの活性調節に重要な働きを持つ宿主因子が、核内で増殖するボルナ病ウイルスのNタンパク質と結合することを見出している。今後、ボルナ病ウイルス感染によるレトロトランスポゾン活性の制御について解析を進める。本研究により、レトロトランスポゾン転移の新しい制御方法の同定が期待される。
3.東京都医学総合研究所・感染制御プロジェクト日紫喜隆行主任研究員とデングウイルス感染症非ヒト霊長類モデル構築に向けた基盤研究を行った。本研究ではアカゲザル3頭から採血し、末梢血単核球(PBMC)を分離・培養した。PBMCで、新規に作製した組換えデングウイルス(自然免疫抑制機能を持つインフルエンザウイルスのNS1遺伝子を組み込んだ)の増殖能を調べたところ、元のウイルスよりも増殖能が上昇していた。また、インターフェロン存在下でも、元のウイルスよりも増殖能が上昇していることを明らかにした。デングアカゲザルモデル構築に向けて大きく前進した。
4.横浜市立大学大学院生命医科学研究科禾 晃和准教授と細菌型S2Pホモログへの安定化変異の導入に関する研究を行った。本研究では細菌が有するS2Pホモログについて、大腸菌の内在性プロテアーゼによって切断を受けやすい細胞内ループ領域の配列をアフィニティー精製用のタグ配列と置き換えた。配列の置換によってS2Pホモログの活性が損なわれていないことを、受け入れ研究室との共同研究によって確かめた後、タグ配列を利用して膜画分からの精製に取り組んだ。その結果、高純度でかつ分散状態も良好な、立体構造解析にも適した精製試料が得られた。
5.UCLA AIDS institute, UCLA School of Nursing An, Dong Sung Associate professorとDevelop a selectable anti-HIV-1 gene therapy vector using CRISPR/CAS9 systemについて研究を行った。Koyanagi has selected 5 potential gRNAs using the MIT gRNA selection algorithm. Then, our initial experiment successfully identified 2 functional HPRT directed gRNAs that can be delivered by a lentiviral vector to positively select gene-modified cells. However, letiviral vector mediate delivery is inefficient in human primary CD34+ cells, we will utilize SeV-Cas9-CCR5 vector that consistently transduces fetal liver derived and peripheral blood mobilized CD34+HSPCs with high efficiencies (~90%). We will optimize HPRT knock out in primary T cells and CD34+ hematopoietic stem cells in vitro and in vivo using several different gene delivery systems.
6.沖縄科学技術大学院大学 生体分子電子顕微鏡解析ユニット杉田征彦博士研究員とインフルエンザウイルス・転写複製装置のクライオ電子顕微鏡解析に関する研究を行った。本研究では、インフルエンザウイルスのゲノムRNAの転写・複製を担うRNP複合体の高分解能構造を明らかにするため、均一な構造を有するリコンビナントRNP複合体の作出と精製を試みた。これまでに、ミニゲノムを用いてリコンビナントRNP複合体を合成することで、比較的均一な構造を有するリコンビナントRNP複合体の精製に成功しており、現在はクライオ電子顕微鏡観察を進めている。
7.東海大学医学部中川草助教とフィロウイルスの感染効率・病原性に関する実験ウイルス学と分子進化学による学際融合研究を行った。本研究ではエボラウイルスなどのフィロウイルスの感染成立に関与する糖タンパク質の分離株毎の時系列解析から進化的淘汰性を調べ、ウイルスの感染効率に関与する可能性のある2 つのアミノ酸部位を見出した。さらに、立体構造予測解析及び糖タンパク質の機能解析からその重要性を実証した(Ueda et al. Genes Cells 2017, Kurosaki et al. JGV 2018)。
8. 国立感染症研究所ウイルス第二部渡士幸一主任研究官と新規B型肝炎ウイルス感染培養系の性状解析と複製阻害剤同定の研究を行った。本研究ではHuS-E/2-NTCP細胞株の性状解析をおこない、この細胞株は立体的に培養することで、高効率にHBVの感染を許容するようになることを見出したが、この立体培養条件下において、HBVゲノムからの転写に重要な肝特異的な転写因子群の発現が誘導されていることを明らかにした。また、新たなHBV複製阻害剤を探索したところ、親電子物質など細胞毒性を示す物質によって活性化される転写因子であるNrf2の活性化剤が抗HBV作用を有することを見出した。
9. 慶應義塾大学 先端生命科学研究所井上浄特任准教授とSLOT法を用いたウイルスに対する高機能抗体の創出に関する研究を行った。本研究では、病原性ウイルスに対する効果的なモノクローナル抗体の新規作出法の開発を目的とし、免疫法の改良や人工リンパ節法の改良などを行っている。現在はインフルエンザウイルスおよびラッサウイルスに対するモノクロ―ナル抗体の作出を行っており、得られたモノクロ―ナル抗体の性状解析を通じて、高機能抗体の作出法の改良を進める予定である。
10. 東京大学・生産技術研究所藤井輝夫教授とオプトジェネティクスとマイクロフルイディクスを用いた遺伝子発現ダイナミクスの制御手法の基盤構築に関する研究を行った。本研究では、青色光刺激と小分子化合物を入力として目的遺伝子の発現量を操作可能な細胞を作成し、光照射とマイクロ流体デバイスによる定量的な精密操作を可能とする基盤技術を開発することを試みた。その結果、周期的な光刺激の条件下で、小分子化合物のOn/Off入力に応じて、階段状またはパルス状応答の遺伝子発現パターンを実現することに成功した。この成果は、これまで困難だった「細胞内のパルスカウンター(階段状かつ周期的に上昇した遺伝子活性が閾値を超えることによって機能発現するとされる回路機能)」の検証に応用できると期待される。現在、成果を投稿準備中である。
11. 京都大学医学研究科人間健康科学系専攻伊吹謙太郎准教授とサル免疫細胞を持つマウスにおけるSIV感染病態の解析に関する研究を行った。アカゲザル全骨髄細胞骨髄単核球をNOGマウスの脛骨骨髄内に移植したところ、移植後7週目までにサル細胞の生着が確認された。これらにSIVmac239株とSIVpbj株SIVmac239を接種したところ、両者で末梢血中のよりサル由来CD45陽性T細胞の減少が確認されたが、サル由来CD45陽性細胞はSIVmac239接種マウスでは週をおって減少したが、SIVpbj接種マウスでは逆に増加していることがわかった。サル化マウスにおいてもサルと同様の感染病態の違いを反映できる動物モデル系になり得ることが示唆された。
12. Korea Brain Research Institute 小曽戸陽一Lab Headとヒト多能性幹細胞からの大脳皮質ニューロン分化に細胞外の物理的環境が果たす役割に関する研究を行った。本年度は、ヒトiPSCsからの神経分化をライブ観察するためのレポーターノックインラインをCRISPR/Cas9法で作成し、細胞培養及び神経分化誘導を増殖制御学研究室にて小林妙子助教と共に行った。神経分化状態を認識するためのGFPの発現について、通常の培養皿に加えて、脳組織の固さを模したゲル状基質においても誘導開始から15日から20日の間に発現が上昇することを確認した。さらに現在、shRNAを用いたHES1ノックダウンを行い、神経分化誘導に対する影響を観察していくための条件検討を開始した。
13. 川崎医科大学微生物学齊藤峰輝教授と遺伝子改変マウスによるHTLV-1 関連脊髄症の発症機序解明と治療法の開発に関する研究を行った。本研究ではHTLV-1-関連脊髄症(HAM)の病態モデル動物の作製を試みた。神経抗原であるMOGに特異的なT細胞受容体トランスジェニック(Tg)マウス(2D2-Tg)とHTLV-1 TaxあるいはHBZ Tgマウス(Tax-Tg or HBZ-Tg)とを交配してダブル Tgマウスを作製した。2D2-Tax-Tgおよび2D2-HBZ-Tgの両系統にて、約30%のマウスが下肢対麻痺を自然発症した。病理学的解析では、くも膜下腔から脊髄実質にわたり異型リンパ球の浸潤を認めた。これらの所見はHAM患者の特徴と一致しており、HAMの動物モデルとして有用であると考えられた。
14. 富山大学医学部戸邉一之教授と脂肪組織におけるIL-7の機能解析に関する研究を行った。本研究では脂肪細胞が産生するIL-7の機能を解析するために、Adiponectin (Adipoq)-CreマウスとIL-7-floxedマウスを交配して、Adipoq-Cre IL-7 cKOマウスを作製した。このマウスの脂肪組織における免疫細胞には大きな変化はなかったが、骨髄におけるB細胞分化が著しく障害されており、末梢リンパ組織におけるB細胞も減少していた。これらの結果から、AdiponectinがB細胞分化を支持する骨髄ストローマ細胞に発現していることが明らかとなった。
15. 国立感染症研究所ウイルス第一部下島昌幸室長と重症熱性血小板減少症候群ウイルスの病原性発現機序の解明に関する研究を行った。本研究では重症熱性血小板減少症候群ウイルス(SFTSV)の致死的な感染のマウスモデルを用いて解析を行った。本疾患の致死的症状は、当初予測されたようなインターフェロン産生に対する不感受性でなく、過剰な炎症性サイトカインの産生が原因であることを強く示唆する結果を得た。本研究より炎症性サイトカインの産生・作用の抑制がSFTSVの新たな治療戦略として考えられることがわかった。
16. 藤田保健衛生大学 総合医科学研究所遺伝子発現機構学研究分門前田明教授とmRNA前駆体から機能ある環状RNAが作られ運ばれる仕組みに関する研究を行った。本研究ではマイクロRNA miR-7 の吸着材として働く環状RNA ciRS-7 の核外輸送機構をアフリカツメガエル卵母細胞への微小注入実験で明らかにした。転写後に逆スプライシング反応によって環状化されたciRS-7が核から細胞質へ能動的に輸送されることがわかった。さらに競合阻害実験とsiRNAによるノックダウン実験により、mRNA核外輸送因子TAPに依存していることが示された。未知のTAPアダプター因子の存在が予想され、興味深い研究に進展している。
17. 筑波大学生命領域学生研究センター西村(佐田)亜衣子助教と皮膚の恒常性維持における表皮幹細胞のダイナミクス解析に関する研究を行った。本研究では皮膚が急速に拡張する妊娠期の腹部皮膚において、表皮基底層の細胞構成が変化し、表皮幹細胞とは異なる形質を持つ増殖細胞集団が生じることを明らかにした。2種類の表皮幹細胞に対するレポーターマウスを用いて、増殖性細胞集団の由来を検証した。増殖性細胞集団の維持に必要転写因子Tbx3のターゲット遺伝子の候補を同定した。