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2021年9月8日
ラッサウイルスの感染を阻害する新たな化合物の同定

武長徹1,2,3、張子涵1,2,3、村本裕紀子1,2,3、Sarah Katharina Fehling4、平林愛1,2,3、髙松由基1、梶川純一1,2,3、宮本翔1、中野雅博1,2,3、浦田秀造5、Allison Groseth6、Thomas Strecker4、野田岳志1,2,3

1. 京都大学ウイルス・再生医科学研究所 微細構造ウイルス学分野
2. 京都大学大学院 生命科学研究科 微細構造ウイルス学分野
3. 国立研究開発法人 科学技術振興機構CREST
4. Institute of Virology, Phillips University Marburg, Germany
5. 長崎大学 感染症共同研究拠点
6. Institute of Molecular Virology and Cell Biology, Friedrich-Loeffler-Institut, Germany

CP100356 hydrochloride, a P-glycoprotein inhibitor, inhibits Lassa virus entry:
Implication of a candidate pan-mammarenavirus entry inhibitor

Viruses. 13: 1763 (2021) doi: 10.3390/v13091763

概要

ラッサウイルスはアレナウイルス科に属し、ヒト対して致死的なラッサ熱を引き起こす。ラッサ熱は主に西アフリカで流行しているが、承認された抗ラッサウイルス薬は未だ存在しない。そこで我々は抗ラッサウイルス薬の候補化合物を同定するため、ラッサウイルスの糖タンパク質GPを被ったシュードタイプウイルス(VSV-LASVGP)およびアレナウイルスのプロトタイプウイルスであるリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)を用いて、低分子化合物ライブラリーのスクリーニングを実施した。その結果、P-糖タンパク質(P-gp)阻害剤であるCP100356塩酸塩(CP100356)が、細胞毒性を伴わない濃度(CC50 = 21.0 µM)で、VSV-LASVGPおよびLCMVの増殖を強く抑制することを見出した(IC50=0.52、0.54 µM)。さらにフィリップ大学マールブルク(ドイツ)のBSL-4施設でラッサウイルスに対する活性を解析し、CP100356がその増殖を強く抑制することを確認した(IC50=0.062 µM)。CP100356は感染細胞表面でのレセプター結合を阻害しないが、アレナウイルスGPの膜融合活性を阻害することを明らかにした(図1)。興味深いことに、様々なアレナウイルスGPを被ったシュードタイプウイルスを用いた実験から、CP100356は様々なアレナウイルスに広く感染阻害効果を示すことが確認された。以上の研究から、CP100356がラッサウイルスを含む様々なアレナウイルスに有効な汎アレナウイルス侵入阻害剤となりうることが明らかになった。

 

図1 CP100356による膜融合阻害