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2021年7月12日
ウイルスRNA合成中のインフルエンザウイルスリボヌクレオタンパク質複合体の微細構造解析

中野雅博1,2、杉田征彦1,3,4、古寺哲幸5、宮本翔1、村本裕紀子1,2、Matthias Wolf4、野田岳志1,2

1 京都大学 ウイルス・再生医科学研究所 微細構造ウイルス学分野
2 京都大学 大学院生命科学研究科 微細構造ウイルス学分野
3 京都大学 白眉センター
4 沖縄科学技術大学院大学 生体分子電子顕微鏡解析ユニット
5 金沢大学 ナノ生命科学研究所

Ultrastructure of influenza virus ribonucleoprotein complexes during viral RNA synthesis
Communications Biology. 4: 858 (2021)
doi: 10.1038/s42003-021-02388-4

概要

インフルエンザウイルスのゲノムRNAは一本鎖のマイナス鎖RNAであり、核タンパク質NPやポリメラーゼとともにvRNPを形成する。vRNPは柔軟な二重らせん構造を持ちゲノムRNAの転写や複製を担うが、RNA合成中のvRNPの構造については十分には解明されていない。そこで本研究では、高速原子間力顕微鏡(AFM)およびクライオ電子顕微鏡(EM)を用いて、RNA合成中のvRNPの微細構造を解析した。

初めにウイルスから精製したvRNPを用いてin vitro RNA合成反応を行い、ウイルスRNAが合成されることを確認した。続いて、in vitro RNA合成中のvRNPを高速AFMおよびクライオEMで解析した。その結果、vRNPが二重らせん構造を維持したままRNAと結合している様子が認められた(下図①)。Br-UTPを用いた解析により、らせん状vRNPに結合したRNAはvRNPから新規合成されたRNAであることが確認された。一方で、二重らせん構造が崩壊したvRNPも認められ、このような不定形のvRNPは常にループ状RNAと結合していた(下図②)。Click反応とvRNPの構造安定性の力学的解析から、このループ状のRNAはvRNPから新規合成されたRNAとvRNPから外れたゲノムRNA(テンプレートRNA)から構成されることを明らかにした。

今回の結果から、vRNPは二重らせん構造を維持したままRNA合成を行うことで繰り返しのRNA合成(転写・複製)を可能にしていること、一方で、RNA合成中にvRNPからウイルスRNAが外れることでvRNPの二重らせん構造が崩れてしまい以降のRNA合成ができなくなる可能性が示唆された。本研究では高速AFMとクライオEMを組み合わせることにより、これまで分からなかったRNA合成中のvRNPの微細構造を明らかにすることに成功した。

 

図 RNA合成中のvRNPの高速AFM観察

① 二重らせんを維持したvRNPとRNA(矢印)のAFM像

② 二重らせんが崩れたvRNPとループ状RNA(矢印)のAFM像

スケールバー: 50 nm