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2021年5月17日
脊椎動物ゲノムに隠された1億年にわたるボルナウイルス感染の歴史

川崎純菜1,2、小嶋将平1,*、向井八尋1,2、朝長啓造1,2,3、堀江真行1,4,**

1 京都大学 ウイルス・再生医科学研究所 RNAウイルス分野
2 京都大学 大学院生命科学研究科 生体動態制御学分野
3 京都大学 大学院医学研究科 分子ウイルス学分野
4 京都大学 白眉センター
* 現所属:理化学研究所 生命医科学研究センター
** 現所属:大阪府立大学 大学院生命環境科学研究科 獣医学専攻 獣医微生物学教室

100-My history of bornavirus infections hidden in vertebrate genomes
Proc Natl Acad Sci USA. 118:e2026235118. (2021)
doi: 10.1073/pnas.2026235118.

概要

生物は進化の過程において、ウイルス感染症の脅威にくり返し晒されてきたと考えられている。しかし、ウイルスは生物とは異なり物理的な化石を残さないため、先史時代におけるウイルスの感染を解明することは困難であると思われてきた。生物のゲノムには、過去に感染したウイルスに由来する遺伝子配列である内在性ウイルス様エレメント(EVE)が存在する。EVEは過去のウイルスの分子化石であり、EVEを解析することによって、古代のウイルスの存在年代・宿主域・多様性を明らかにし、ウイルス感染の歴史を遡ることができる。本研究では、RNAウイルスの1種であるボルナウイルスに由来するEVE(内在性ボルナウイルス様エレメント: EBL)を網羅的に同定・解析することで、先史時代におけるRNAウイルス感染の歴史を再構築した。まず、969種の真核生物ゲノムにおいて、ボルナウイルスに類似した遺伝子配列を探索し、1,400以上ものEBL遺伝子座を同定した。次に、古代ボルナウイルスの感染が起こった年代を推定するために、遺伝子オーソロジー解析を実施した。その結果、最古のボルナウイルス感染が、少なくとも約1億年前に発生していたことを明らかにした。また、現代においてボルナウイルスの感染が確認されていない生物系統も、過去にはボルナウイルスの感染を経験していたことを示した。さらに、脊椎動物の中で特に霊長類祖先において、ボルナウイルスの感染・内在化がくり返されてきたことを見出した。本研究は、先史時代におけるRNAウイルスの感染履歴を再構築し、現代のウイルス研究からだけでは分かりえなかった、宿主生物とRNAウイルスとの共進化過程を明らかにすることに成功した。

図. 脊椎動物進化におけるボルナウイルス内在化イベントと各動物種での内在性ボルナウイルス様配列(EBLs)の内在化数.