医生研について
研究について
ホーム > 研究成果 > 細胞生存にかかわるミトコンドリアタンパク質を発現するヒト内在性ボルナウイルスの発見
2021年5月13日
細胞生存にかかわるミトコンドリアタンパク質を発現するヒト内在性ボルナウイルスの発見

藤野寛1、堀江真行2,3、小嶋将平4、清水彩1、鍋倉綾1、小林広子1、牧野晶子3,5、本田知之6、朝長啓造3,5,7

1麻布大学獣医学科 微生物学第二研究室、2京都大学白眉センター、3 京都大学ウイルス・再生医科学研究所 RNAウイルス分野、4理化学研究所 ゲノム免疫生物学理研白眉研究チーム、5京都大学大学院生命科学研究科 生体動態制御学分野、6大阪大学大学院医学系研究科 感染症・免疫学講座ウイルス学分野、7京都大学大学院医学研究科 分子ウイルス学分野)

A human endogenous bornavirus-like nucleoprotein encodes a mitochondrial protein associated with cell viability.

Journal of Virology (2021)    DOI: 10.1128/JVI.02030-20

概要

内在性レトロウイルスは、動物のゲノム内に存在する古代のレトロウイルス感染に由来する配列であり、機能的遺伝子あるいは因子として進化の過程で組み込まれることで宿主に遺伝的新規性を与えている。最近、私たちはレトロウイルスだけでなく非レトロウイルス性RNAウイルスに起因する内在性因子が動物ゲノムにおいて機能的遺伝子の源となる可能性があることを示した。内在性ボルナウイルス様因子(EBLs)と呼ばれる祖先ボルナウイルス感染の痕跡は多くの種類の脊椎動物ゲノムに存在し、その中には宿主細胞内で機能的な産物として発現している物も存在する。以前の研究により、hsEBLN-2と名付けられたヒトEBL遺伝子座からタンパク質をコードするmRNAが発現することが予測されており、このことはhsEBLN-2が進化の過程で細胞機能を獲得してきたことが示唆されていた。しかしながら、hsEBLN-2由来産物の詳細な機能は解明されていない。本研究において、私たちは、hsEBLN-2に由来するタンパク質であるE2がミトコンドリアに局在し、複数の宿主ミトコンドリアタンパク質と相互作用を示すことを明らかにした。また、hsEBLN-2由来RNAをノックダウンすると、アポトーシスが誘導され細胞生存率が顕著に減少することが証明された。対照的に、E2の強制発現はストレス環境下での細胞生存率を上昇させ、抗アポトーシスタンパク質として知られるHAX-1の細胞内における安定性を向上させた。これらの結果から、宿主遺伝子として取り込まれたhsEBLN-2が細胞生存にかかわるミトコンドリアタンパク質を発現していることが明らかとなった。本研究は、非レトロウイルス性のRNAウイルスに由来する内在性ウイルス因子が、これまで考えられていたよりも多彩な機能を有した状態で宿主に内在化していることを示しており、進化におけるRNAウイルス感染の役割について新たな知見を見出した。

図. E2タンパク質のミトコンドリア局在.E2由来タンパク質(緑)は抗TOM20抗体で染まるミトコンドリアと共局在している。