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2019年5月8日
リポペプチド抗原提示を担う新しいMHCクラス1分子サブセットの構造解析

山本侑枝1,2、森田大輔1,2、嶋 燿子1,2、翠川陽大1,2、水谷龍明1,2、鈴木樹理3、森直樹、椎名隆5、猪子英俊5、田中義正6、三上文三7、杉田昌彦1,2 

(1 京都大学ウイルス・再生医科学研究所細胞制御分野、2 京都大学生命科学研究科高次細胞制御学分野、3 京都大学ウイルス研究所霊長類モデル研究領域、4 京都大学農学研究科化学生態学研究室、5 東海大学医学部基礎医学系分子生命科学、6 長崎大学医歯薬学総合研究科分子標的医学研究センター、7 京都大学農学研究科応用構造生物学分野)

 

Identification and Structure of an MHC Class I–Encoded Protein with the Potential to Present N-Myristoylated 4-mer Peptides to T Cells

Journal of Immunology (2019) doi:10.4049/jimmunol.1900087

概要

ヒト/サル免疫不全ウイルス(HIV/SIV)が産生するNefタンパク質は宿主細胞の反応系を利用して、そのN末端に脂質(ミリスチン酸)による修飾を受け、その免疫抑制蛋白としての機能を発揮します。一方、サルエイズモデルを活用した研究から、この脂質修飾反応をモニターする新しい免疫システムの存在が発見されました。アカゲザルが持つ古典的MHCクラス1分子であるMamu-B*098分子はSIV Nefに由来する5残基の脂質化ペプチド「リポペプチド」(C14-nef5)を結合し、T細胞へと提示します(Morita et al. Nat. Commun. 2016)。脂質修飾はウイルスの病原性に深く関連した重要な翻訳後修飾であることから、リポペプチド特異的T細胞応答はウイルス制御の一翼を担っている可能性が高いと考えられます。

本研究では、SIV Nefに由来する僅か4残基のリポペプチド(C14-nef4)を結合し、T細胞へと提示する新しいアカゲザルMHCクラス1分子としてMamu-B*05104を同定しました。そして、そのリポペプチド抗原提示様式を高解像度のX線結晶構造解析より明らかにしました。Mamu-B*05104とMamu-B*098は進化的には比較的、遠縁でありながら、どちらもミリスチン酸を収納するのに適した極めて大きく、疎水性の高いポケット構造(Bポケット)を有していました。一方、リポペプチドのC末端アミノ酸を収納するもう一つのポケット(Fポケット)については、Mamu-B*098がセリン残基のような小さい極性アミノ酸の結合に適しているのに対して、Mamu-B*05104はペプチド提示分子(HLA-B51など)と同様にイソロイシン残基のような嵩高い疎水性アミノ酸の結合に有利な構造となっており、実質的な違いが認められました。このことは、リポペプチド抗原提示分子の多様性を示唆しています。さらに、Mamu-B*05104に結合したC14-nef4抗原ではT細胞エピトープとなり得る領域は中央2アミノ酸(グリシン-アラニン)しかありませんでした。従って、ペプチド抗原と比べると、リポペプチド抗原の多様性は非常に限定的であると考えられます(図)。
以上の解析から、リポペプチド抗原提示を担う新しいMHCクラス1分子サブセットの構造学的特徴が明らかとなりました。今回の研究成果は、MHCクラス1分子の進化を考えるうえでも重要な知見と言えます。

 


図. リポペプチドを提示するMHCクラス1分子の抗原提示モデル

9残基の長鎖ペプチドを提示する代表的なMHCクラス1アリルであるHLA-B51(図左)とは対照的に、Mamu-B*05104(図中央)とMamu-B*098(図右)はそれぞれ4残基あるいは5残基の短鎖リポペプチドを結合し、T細胞へと提示する。両者は共に大きく、疎水性の高いBポケットを有しており、そこにアシル鎖を収納する。一方、C末端アミノ酸を結合するFポケットについては多様性があり、Mamu-B*05104のFポケットはむしろHLA-B51に酷似している。また、リポペプチド抗原のT細胞エピトープ(黄色)はペプチド抗原と比べ、限定的である。