2019年2月12日 ボルナ病ウイルスのヌクレオプロテインアイソフォームの発現機構の解明 |
小嶋将平, 佐藤涼, 柳井真瑚, 小松弓子, 堀江真行, 朝長啓造
(京都大学 ウイルス・再生医科学研究所)
”Splicing-Dependent Subcellular Targeting of Borna Disease Virus Nucleoprotein Isoforms”
Journal of Virology 2018 Dec 12. pii: JVI.01621-18. doi: 10.1128/JVI.01621-18
概要
ボルナ病ウイルスは、1本鎖マイナス鎖のRNAをゲノムにもつウイルスです。ボルナ病ウイルスはウマやヒツジ等の哺乳動物に感染し、感染した動物の一部は行動異常や脳炎を引き起こします1。ヒトの疾患とボルナ病ウイルスとの明確な因果関係は報告されていません。しかし、2018年にヒト脳炎患者からボルナ病ウイルスが検出された症例が報告されており、ボルナ病ウイルスの基本性状の解明の重要性が高まっています2,3。
ボルナ病ウイルスはウイルス遺伝子の発現にスプライシングを利用します4,5,6。2000年以降、ボルナ病ウイルスとスプライシングに関する報告はなく、ノーザンブロッティングとPCRを用いた一面的な解析結果しか報告されていません。そこで本研究では、次世代シーケンス技術を用いウイルス由来の転写産物の構造を網羅的に解析することで、スプライシングを用いたウイルス遺伝子発現機構を明らかとすることを目的としました。
ヒト由来培養細胞におけるウイルス転写産物の配列解析の結果、ヌクレオプロテイン遺伝子由来の転写産物にこれまで報告されていないイントロンが見つかりました。イントロンは2箇所あり、ヌクレオプロテイン遺伝子からは複数のアイソフォームが発現することが考えられました。また、ウイルスが感染した培養細胞において、スプライシングを受けたmRNAから一部のヌクレオプロテインアイソフォームが発現していることを確認しました。面白いことに、全長のヌクレオプロテインは核内に局在しますが、スプライシングにより発現するアイソフォームの一部は小胞体に局在することが明らかとなりました。さらに、スプライシングサイトを欠損した組換えウイルスを用いた解析の結果、ヌクレオプロテイン転写産物のスプライシングはウイルスの感染を抑制する負の制御機構であることが示されました。
スプライシングによるヌクレオプロテインアイソフォームの発現機序というボルナ病ウイルスの基本性状を明らかとした点において、本研究は新しく重要です。近年、ヒト脳炎患者からボルナ病ウイルスや近縁のウイルスが相次いで見つかっており、ボルナ病ウイルスのヒトへの高い病原性が示唆されています2,3。本研究で得られたボルナ病ウイルスの基本性状は、ヒトの疾患とボルナ病ウイルスの関連を研究していく上で重要な基盤の一部となると考えられます。
- Ludwig et al., 1973. Microbiol. Immunol.
- European Centre for Disease Prevention and Control. 2018.
- Korn et al., 2018. Engl. J. Med.
- Cubitt et al., 1994. Res.
- Schneider et al., 1994. Virol.
図. 発現が予想されるヌクレオプロテインアイソフォームとそれらの細胞内局在の模式図