医生研について
研究について
ホーム > 研究成果 > ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の新しい感染維持機構を解明
2018年2月12日
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の新しい感染維持機構を解明

Mohamed Mahgoub1、安永 純一朗1、岩見 真吾2、中岡 慎治3、小泉 吉輝4、志村和也1、松岡 雅雄1,5

(1京都大学ウイルス・再生医科学研究所ウイルス制御分野、2九州大学大学院理学研究院 、3 東京大学生産技術研究所、4金沢大学医学部、5熊本大学大学院生命科学研究部)

“Sporadic on/off switching of HTLV-1 Tax expression is crucial to maintain the whole population of virus-induced leukemic cells”

Proc Natl Acad Sci USA (2018) doi: 10.1073/pnas.1715724115

概要

ヒトT細胞白血病ウイルス1型(human T-cell leukemia virus type 1: HTLV-1)はCD4陽性Tリンパ球の悪性腫瘍である成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia: ATL)や難治性神経疾患であるHTLV-1関連脊髄症(HTLV-1 associated myelopathy: HAM)の原因となるレトロウイルスであり、日本に現在約80万人の感染者が存在すると推定されています。HTLV-1のウイルス遺伝子の中にはTax及びHTLV-1 bZIP factor (HBZ)という2つのがん遺伝子が含まれており、これらの作用により感染細胞ががん化すると考えられています。特にTaxはウイルスの複製にも必要なタンパク質であり、HTLV-1が発見された1980年代から解析が進められてきました。しかしながら、Taxは免疫の標的になりやすいため白血病細胞では殆ど検出されず、その役割や作用機構は明らかになっていませんでした。今回の研究により、白血病細胞のごく一部の細胞が短時間Taxを発現することで、細胞集団全体の生存を維持していることが判明しました。さらに感染細胞にストレスが加わるとTaxを産生する細胞が増えることも明らかとなりました。免疫から逃れるためTaxの産生を最小限に抑える一方で、状況に応じてTaxを活性化する機構はHTLV-1の持続感染に重要であり、感染細胞のがん化にも関与していると考えられます。これはウイルス遺伝子がオン・オフを調節しながら機能していることを明らかにした初めての研究であり、Taxを標的とした効果的な免疫療法の開発にも寄与できるものです。尚、本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構「次世代がん医療創生研究事業、新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業」、独立行政法人日本学術振興会、国立研究開発法人科学技術振興機構、文部科学省、公益財団法人高松宮妃癌研究基金、公益財団法人安田記念医学財団から研究資金の助成を受け行われました。