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2017年5月24日
貧血がRNA分解により制御されるメカニズムを解明―RNA分解酵素Regnase-1が腸管での鉄吸収を調節する―

吉永 正憲1,2, 中塚 賀也1,2, Alexis Vandenbon3, 織 大祐1,6, 植畑 拓也1,2, 辻村 亨4, 鈴木 穣5, 三野 享史1,2, 竹内 理1,2

1京都大学ウイルス・再生医科学研究所、2革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)、3大阪大学免疫学フロンティア研究センター、4兵庫医科大学、5東京大学大学院新領域創成科学研究科、6奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科

“Regnase-1 maintains iron homeostasis via the degradation of transferrin receptor 1 and prolyl hydroxylase domain-containing protein 3 mRNA”

Cell Reports 9 (2017) pp. 1614-1630. 10.1016/j.celrep.2017.05.009

概要

鉄は生体にとって非常に重要な元素のひとつとして知られている。体内の鉄の量が不足すると貧血を生じ、逆に過剰になるとヘモクロマトーシスといった疾患の原因となるため、生物の体内での鉄の量は、さまざまな仕組みにより厳密に調節されている。鉄代謝を制御する機構の一つとして、mRNA の安定性を調節する機構の重要性が以前より知られている。これまで、鉄代謝にかかわる mRNA を安定化する因子 IRP が同定され、詳細に解析が進められてきた。これに対して、鉄代謝にかかわる mRNA の分解を促進する機構はほとんど不明なままであった。
本研究では、鉄代謝にかかわる遺伝子、トランスフェリン受容体と PHD3 の mRNA を Regnase-1 が分解することを解明した。また、Regnase-1 は PHD3 の mRNA を分解することで、鉄代謝において重要な転写因子である HIF2α を安定化させ、腸管での鉄吸収を促進する役割があることを明らかにした。さらに、Regnase-1 自身が HIF2α の標的遺伝子であり、Regnase-1, PHD3, HIF2α の三者からなる正のフィードバック機構が腸管での鉄吸収を調節していることを見出した。本研究を契機として、貧血などの鉄代謝異常による疾患の病態解明や、新たな治療法の開発に繋がることが期待される。
本研究は、大阪大学、東京大学、兵庫医科大学と共同で行ったものである。

※本研究は、AMEDの革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「炎症の慢性化機構の解明と制御に向けた基盤技術の創出」研究開発領域における研究開発課題「自然免疫における転写後調節を介した慢性炎症抑制メカニズムの解析」(研究開発代表者:竹内 理)の一環で行われました。なお、本研究開発領域は、平成27年4月の日本医療研究開発機構の発足に伴い、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)より移管されたものです。

 

図 Regnase-1による腸管の鉄吸収調節モデル