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2017年1月17日
HTLV-1 bZIP factor は抑制性免疫補助受容体シグナルを阻害しT細胞の増殖を促進する

紀ノ定明香1,2、安永純一朗1、志村和也1、Paola Miyazato1、大西知帆1、伊豫田智典3、稲葉カヨ3、松岡雅雄1,4

(1京都大学ウイルス・再生医科学研究所ウイルス制御分野、2京都大学生命科学研究科生体動態制御学分野、3京都大学生命科学研究科生体応答学分野、4熊本大学医学部血液内科)

“HTLV-1 bZIP factor enhances T-cell proliferation by impeding the suppressive signaling of co-inhibitory receptors”

PLoS Pathogens (2017) doi.org/10.1371/journal.ppat.1006120

概要

ヒト T 細胞白血病ウイルス 1 型(human T-cell leukemia virus type 1 : HTLV-1)は、成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia : ATL)の原因ウイルスです。HTLV-1 のレセプターは glucose transporter であり、生体内では T 細胞だけでなく B 細胞や単球など、様々な細胞に感染できます。しかし、HTLV-1 は生体内で主に CD4 陽性 T 細胞に感染しており、その増殖を促進させ、発がんへと導いています。これまで、なぜ HTLV-1 がT細胞特異的に増殖を促進させるかは不明でした。
本研究では、HTLV-1 転写産物のうち HTLV-1 bZIP factor(HBZ)が複数の抑制性免疫補助受容体(TIGIT、PD-1、BTLA、LAIR-1)シグナルを 2 種類の機構で抑制することで TCR シグナルの感受性を高め、T 細胞の増殖を促進させることを明らかにしました。一つ目は、BTLA と LAIR-1 の発現を HBZ が抑制することにより、T 細胞の増殖を促進させる機構です。二つ目は、HBZ が TIGIT と PD-1 の発現は亢進させるがその機能を阻害し、T 細胞の増殖を促進させる機構です。
これらの抑制性免疫補助受容体は細胞内に共通して、チロシンフォスファターゼである SHP-2 が結合するモチーフ(ITIM、ITSMモチーフ)を持ちます。通常、これらのモチーフに結合した SHP-2 はリン酸化により活性化し、TCR 下流シグナル分子を脱リン酸化することで T 細胞の活性を抑制します。しかし、HBZ は SHP-2 の活性および TCR 下流シグナル分子の脱リン酸化を抑制することが明らかとなりました。また、通常 SHP-2 は Grb2 や THEMIS と複合体を形成し抑制性免疫補助受容体と結合しますが、HBZ は THEMIS と結合することで SHP-2 と抑制性免疫補助受容体との結合を阻害することも明らかとなりました。
さらに、これまで HBZ は主に核に局在し、p65 や Smad3、c-Jun などの転写因子や p300 などの宿主因子と相互作用することが報告されてきました。本研究では、THEMIS が HBZ と結合し、その局在を核から細胞質に変化させることで HBZ が細胞質において抑制性免疫補助受容体の機能を阻害することを明らかにしました。また、THEMIS を発現抑制すると HBZ が主に核に局在したことから、THEMIS が T 細胞において HBZ の局在を変化させる責任分子であることも明らかになりました。
THEMIS は T 細胞特異的に発現する分子として知られており、本研究で明らかにした HBZ と THEMIS との相互作用は、HBZ が T 細胞特異的に増殖を促進する機構の一つであると考えています。

本研究成果は、次世代がん医療創生研究事業 (P-CREATE)、科学研究費、公益財団法人 三菱財団、日本学術振興会Core-to-Core Program A, Advanced Research Networks、日本学術振興会特別研究員奨励費の研究成果です。