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2016年12月20日
慢性炎症・肉芽腫形成を制御するS100A9陽性好中球の発見

吉岡佑弥1,2、水谷龍明1、水田賢志3、宮本歩己1,2、邑田悟1、阿野敏明1,2、一瀬大志1、森田大輔1,2、山田博之4、星野仁彦5、鶴山竜昭6、杉田昌彦1,2

(1 京都大学ウイルス・再生医科学研究所、2 京都大学大学院生命科学研究科、3 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科、4公益財団法人結核予防会結核研究所、5国立感染症研究所ハンセン病研究センター、6 京都大学大学院医学研究科)

“Neutrophils and the S100A9 protein critically regulate granuloma formation”

Blood Advances 2016 1:184-192; doi: https://doi.org/10.1182/bloodadvances.2016000497

概要

結核などの慢性感染病態において、病原体と宿主免疫系の攻防の結果、マクロファージが同心円状に密に配置された球状の細胞集塊(肉芽腫)が形成されます。肉芽腫形成機構の解明は慢性感染病態の理解や制御に不可欠ですが、その詳細はほとんど不明です。
私たちは、まずモルモット肉芽腫モデルを開発し、肉芽腫に対して特徴的な染色性を示すモノクローナル抗体を多数樹立しました。このうちG213抗体は、肉芽腫の構成主体であるマクロファージには反応せず、肉芽腫中心部に集積した活性化好中球に強い反応性を有することがわかりました。さらに生化学的解析により、G213認識抗原がS100ファミリー分子A9であることを突き止めました。S100A9タンパク質は、免疫細胞の炎症局所への遊走やマクロファージの活性化を担う多機能分子であり、肉芽腫形成に深く関わっている可能性が考えられました。そこで、S100A9特異的阻害剤(Tasquinimod)をモルモット肉芽腫モデルに投与したところ、1)肉芽腫中心部でのS100A9陽性好中球の集積(コア形成)が減少し、2)マクロファージ密度が疎な未成熟肉芽腫が生じ、3)成熟肉芽腫数が有意に減少することを見出しました。これらの結果は、S100A9タンパク質が、好中球の遊走とマクロファージ活性化を介して肉芽腫形成を制御することを示すものです。ヒト結核肉芽腫においてもS100A9陽性好中球の動員が認められることから、ヒトにおいてもモルモットと同様の肉芽腫形成機構が存在すると考えられ、S100A9タンパク質がヒト結核制御の新たなターゲット分子となることが期待されます。さらに興味深いことに、Tasquinimodは、有望な抗がん剤として現在治験が実施されています。私たちは、好中球が産生するS100A9タンパク質ががんの慢性炎症病態の理解と制御に向けた重要なカギとなる可能性を考え、発展的研究を進めています。

図. S100A9陽性好中球による肉芽腫形成メカニズム
A. 抗S100A9抗体を用いたモルモット肺肉芽腫モデルの免疫組織化学染色 S100A9陽性好中球(茶色)が、肉芽腫の中心部に集積している(図中の矢印)。S100A9特異的阻害剤Tasquinimod(TasQ)投与群では、非投与群(左パネル:Mock)に比べて、好中球集積領域が減少し、肉芽腫形成数も有意に減少する(右パネル:TasQ)。スケールバー:500µm
B. 肉芽腫形成におけるS100A9タンパク質の作用機序 S100A9タンパク質は、好中球の組織への浸潤を促し、局所における好中球コアの形成を誘導、さらにはマクロファージ活性化を担う。その結果、マクロファージが同心円状に密に集積し、成熟肉芽腫が形成される。