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2016年11月22日
ヒトiPS細胞からがん細胞を殺傷できる強力なキラーT細胞を再生 -再生T細胞療法の臨床応用に向けて一歩前進-

前田卓也1,2、永野誠治1,2、一瀬大志1、片岡圭亮3、山田大輔4、小川誠司3、古関明彦4 北脇年雄2、門脇則光5、高折晃史2、増田喬子1、河本 宏1

(1京都大学ウイルス・再生医科学研究所再生免疫学分野、2京都大学大学院医学研究科血液・腫瘍内科学講座、3京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学講座、4理化学研究所統合生命医科学研究センター免疫器官形成研究グループ、5香川大学医学部血液・免疫・呼吸器内科学)

“Regeneration of CD8αβ T cells from T cell-derived iPSC imparts potent tumor antigen-specific cytotoxicity”

Cancer Research 10.1158/0008-5472.CAN-16-1149

概要

これまでがん細胞に反応するキラーT細胞を体外で増やして患者に投与するとがんの治療に有効であることが示されてきました。しかしキラーT細胞を培養すると、ある程度増えた時点で疲弊してしまうため、高品質な細胞を効率よく増やすことは極めて困難でした。

本研究グループは、がん細胞に特有の抗原(がん抗原)を認識できるT細胞レセプターを有するT細胞からiPS細胞を作製し、そのiPS細胞からT細胞を再生すると、がん抗原を認識するT細胞だけを量産することができるというアイデアに基づき、2013年に世界で初めてがん抗原に反応するヒトのキラーT細胞の再生に成功しました。

しかし、これまでの培養法では、生体中のキラーT細胞に比べると、がん抗原を標的にして殺傷する能力の弱い細胞しかつくることができませんでした。今回、この問題を解決するために、培養法の改良を行いました。iPS細胞からT細胞を再生させる過程で生成される、CD4とCD8という分子をともに出す若い細胞を他の細胞から分離した上で刺激を加えると、がん抗原を標的にして殺傷する能力の強いキラーT細胞がつくれることを発見しました。

開発した手法を用いて、WT1抗原というがん抗原を標的とする再生キラーT細胞を作製したところ、この再生キラーT細胞はWT1抗原を出す白血病細胞を試験管内で効率よく殺傷することを確認しました。また、免疫不全マウスに白血病細胞を注入して作製した白血病モデルで治療効果が認められました。今回の成果は、再生キラーT細胞を用いたがん治療の戦略を、臨床応用に向けて一歩前進させるものと考えられます。

健常人のT細胞の中からWT1抗原特異的なキラーT細胞を選択的に増幅し、そのT細胞を初期化することでiPS細胞を作製した。作製したiPS細胞から、今回開発した方法を用いてWT1抗原に反応できるT細胞を再生した。新規の方法のポイントは、CD4とCD8という分子を共に出している段階の細胞を単離してから刺激を加えるという点である。再生したキラーT細胞はヒト白血病細胞を用いた動物モデルで治療効果を示した。