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2016年10月27日
実験用霊長類への新規C型肝炎ウイルス予防ワクチン接種による細胞性・液性免疫応答の誘導

横川 寛1,2、東濃 篤徳3,4、鈴木 紗織3,4、森山 正樹1、 中村 紀子1、 鈴木 知比古1、鈴木 亮介2、石井 孝司2、小檜山 康司5,6、石井 健5,6、脇田 隆字2、明里 宏文3,4、加藤 孝宣2

(1 東レ株式会社医薬研究所、2 国立感染症研究所ウイルス2部、3 京都大学霊長類研究所、4 京都大学ウイルス・再生医科学研究所、5 医薬基盤・健康・栄養研究所、6 大阪大学免疫学フロンティア研究センター)

“Induction of humoural and cellular immunity by immunisation with HCV particle vaccine in a non-human primate model”

Gut doi:10.1136/gutjnl-2016-312208

概要

C型肝炎ウイルス(HCV)は慢性肝炎を引き起こし、肝硬変や肝癌の原因となるウイルスとして知られています。近年、HCVの複製を阻害する直接作用型抗ウイルス薬(Direct Acting Antivirals; DAAs)が開発され、C型慢性肝炎の治癒率は向上してきました。しかしDAAsを用いた治療は高額な医療費がかかり治癒後も再感染のリスクがあること、海外では今もなお発展途上国において感染拡大が見られることから、感染・発症予防が可能なHCVワクチンの開発が依然として求められています。
HCVワクチンの開発は、これまで世界中の研究グループ試みてきましたが実用化されていません。HCVのエンベロープタンパク質を抗原として用いたワクチンは、マウス、モルモット、チンパンジー等のモデルにおいて中和抗体を誘導できることが報告されており、既に第一相臨床試験が行われています。またHCV抗原を発現させるウイルスベクターを用いたワクチンでは、細胞性免疫の誘導も報告されています。しかし感染・発症予防に必要とされている、中和抗体および細胞性免疫の両方を同時に誘導できるワクチンは開発されていません。

本研究グループは2005年に世界で初めて報告された培養細胞によるHCV増殖システムを応用して、HCV粒子を大量に培養・精製し不活化したHCVワクチンの有効性について検討を進めてきました。その結果、不活化HCV粒子を新規アジュバントであるK3-SPGとともに小型霊長類モデルであるコモンマーモセットに接種したところ、感染阻止に有効な中和抗体と細胞性免疫の両方を効率良く誘導できることを初めて明らかにしました。重要なことに、不活化HCV粒子+K3-SPG群で誘導される中和抗体は、ワクチンとして使用した遺伝子型2aだけでなく他の遺伝子型のHCV株の感染性を阻止しました。さらに不活化HCV粒子+K3-SPG群では、不活化HCV粒子+Alum群と比較して高いレベルの細胞性免疫応答も見られました。なお、いずれの接種群においてもワクチンやアジュバントによる有害事象は認められませんでした。以上の実験結果より、不活化HCV粒子およびK3-SPGアジュバントを組み合わせたワクチンは、HCV感染阻止に有効な中和抗体と細胞性免疫の両方を効率良く、かつ安全に誘導できることを初めて明らかにしました。

本研究の成果により、培養細胞で作製された不活化HCV粒子は、強力な新規アジュバントであるK3-SPGとともに接種することで有効かつ安全なHCVワクチンとして使用できる可能性が示されました。今後、不活化HCV粒子の大量合成技術やワクチン接種プロトコルの最適化を通じて、早期のHCVワクチン実用化を目指したいと考えています。

用語解説

K3-SPG:医薬基盤・健康・栄養研究所において開発された強力な新規アジュバントで、CpG配列を持つ合成核酸をシゾフィランと結合させたもの

Alum:これまで多くのワクチンで用いられているアジュバント