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2025年2月6日
Notchシグナルと転写因子E2Aによるフィードバック増幅回路が、胸腺発生/加齢に伴う自然免疫リンパ球からT細胞への分化移行を制御する

宮崎和子1, 堀江健太2, 渡邊仁美3, 日髙礼子1, 林璃菜子1, 早津徳人4, 藤原健太郎1, 桑田怜1 植畑拓哉5, 越智陽太郎6, 竹中慎2, 河口里紗7, 生田宏一8, 竹内理5, 小川誠司6, 穂積勝人9, Georg A. Hollander10, 近藤玄3, 秋山泰身2, 宮崎正輝1

(1 京都大学医生物学研究所再生免疫学分野、2 理研生命医科学研究センター免疫恒常性研究チーム、3 京都大学医生物学研究所統合生体プロセス分野、4 理研生命医科学研究センター応用ゲノム解析技術研究チーム、5 京都大学大学院医学研究科医化学講座、6京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学講座、7 京都大学iPS細胞研究所未来生命科学開拓部門、8 京都大学医生物学研究所免疫制御分野、9 東海大学医学部生態防御学、10 Oxford大学小児科学)

A feedback amplifier circuit with Notch and E2A orchestrates T-cell fate and suppresses the innate lymphoid

Genes and Development. 2025 Feb 4. doi: 10.1101/gad.352111.124

概要

獲得免疫反応の中心的な役割を担うT細胞は、他の免疫細胞・リンパ球とは異なり、胸腺という特異的な臓器で分化することでその特有の機能を獲得することができる。なぜ胸腺でだけT細胞が分化できるのか?それは、リンパ球前駆細胞で発現するNotch1レセプターと胸腺上皮細胞で発現するDelta-like 4 (DLL4) というリガンドによるシグナルに依存していることが知られている。一方、リンパ球前駆細胞においては、転写因子E2AがT細胞分化に必須の役割を果たすことをこれまで我々が報告してきたが、Notchシグナル(外的因子)とE2A(内的因子)の協調作用については全く未解明であった。本研究では、様々な遺伝子改変マウスを用いた解析、そして最新の単一細胞解析技術であるsingle cell Multiome解析を用いて、1) NotchシグナルがT細胞分化を誘導するためにはE2Aの機能が必須であること、2) E2Aの拮坑因子Id2の発現はNotchシグナルにより抑制されること、を見出した。1),  2) によるNotch-E2Aフィードバック増幅回路によりT細胞分化が誘導されること、また同時に自然免疫型リンパ球(自然リンパ球)への分化が抑制されることを世界で初めて明らかにすることができた。本研究では、生体内でのT細胞分化の解析と単一細胞レベルでの遺伝子発現とエンハンサー解析を統合し(scMultiome解析)、従来の方法では解析ができなかったエンハンサー活性と個々の特有の遺伝子発現を分化の時間軸に沿って解析することで、Notch-E2A増幅回路を見出し、その分子機構を解明することに成功した。さらには、この制御軸(Notch-E2A axis)の時間的変動(胸腺発生から生後での変化)が、胸腺内での自然免疫リンパ球から獲得免疫リンパ球への分化変容を誘導することを見出した。

以上のことから、【外部環境からのシグナルと細胞自身の系列特異的な転写因子の協調作用が細胞種特異的な遺伝子発現プログラムを誘導し、細胞の特性を付与していること】、そして、【外因子と内因子の協調作用の変動が臓器発生/加齢に伴う分化の変容を制御していること】を明らかにすることができた。