2025年5月30日 内在性ボルナウイルス配列(EBLN)ノックアウトマウスを用いたボルナ病ウイルスの脳内感染防御メカニズムの解析~EBLN由来piRNAおよびIFN-γ/TLR7経路の抗ウイルス活性を解明~ |
Rie Koide1, Takaya Abe2, Taichi Harimoto1, Anselmo Jiro Kamada3, Yuka Saito1, Matteo Guerrini1, Asami Fujii1, Erica Parrish1, Masayuki Horie4, Hiroshi Kiyonar2, Kazuhiko Yamamoto4, Keizo Tomonaga5, Nicholas F Parrish1
(1.理化学研究所 統合生命医科学研究センター、2.理化学研究所 生命医科学研究センター、3.オックスフォード大学、4.大阪公立大学 大学院獣医学研究科、5.京都大学 医生物学研究所)
Interferon and TLR genes, but not endogenous bornavirus-like elements, limit BoDV1 replication after intracerebral infection
PLoS Pathogens. (2025) doi: 10.1371/journal.ppat.1013165
概要
本研究は、人獣共通感染症として注目されるボルナ病ウイルス1型(BoDV-1)の宿主防御機構を遺伝学的に解析したものです。過去の報告から、哺乳類ゲノムに存在する内在性ボルナウイルス配列(EBLN)から発現されるpiRNAがBoDV-1を抑制するのではないかとの仮説が提唱されていました。しかしながら、この仮説を直接検証した研究はありませんでした。そこで本研究では、(1) IFN-γ受容体欠損マウス、(2) TLR7欠損マウス、(3) すべてのpiRNA産生型EBLNsを欠損させた新規マウス系統を作製し、GFP発現組換えBoDV-1を側脳室内接種するモデルを確立しました。12週後の脳内ウイルス量をRT-qPCRおよび組織学的解析で評価した結果、IFN-γ受容体やTLR7を欠損するとBoDV-1の複製が有意に増加し、これらの免疫経路がBoDV-1の脳内制御に不可欠であることが確認されました。一方、piRNA産生型EBLNをすべて欠損させると、海馬の一部領域でGFPの発現が一時的に増強したものの、脳全体のウイルス量には影響が見られず、EBLN由来piRNAによる抑制効果は少なくとも本モデル条件下では限定的であることが示されました。さらに、TLR7欠損マウスでは個体間のウイルス量のばらつきがほぼ消失したことから、TLR7依存性応答が脳内感染の主要な決定因子である可能性が示されました。
本成果は、BoDV-1に対する宿主免疫の中核がTLR7に依存することを実証するとともに、生命進化の痕跡として注目されてきたEBLNの抗ウイルス機能をさらに詳細に評価する必要性を提供します。今後は、異なる脳領域や生殖巣などpiRNAが豊富な組織、あるいはEBLNと高い相同性をもつ古系統のウイルス株を用いた検証により、EBLNの役割を解析する必要があります。