| 2025年10月8日 ヒトES/iPS細胞の培養を低コスト化し、iPS細胞作製を効率化する化合物を発見 |
NN15-017 Promotes Human Pluripotent Stem Cell Proliferation and Generation
Regenerative Therapy 30, 838-848.
https://doi.org/10.1016/j.reth.2025.09.003
山崎-藤垣 静香1, 中谷 良子1, 平田 修2, 猿橋 康一郎2, 藤井 麻衣1, 末盛 博文1, 西野 泰斗2, 川瀬 栄八郎1
1 京都大学 医生物学研究所 附属ヒトES細胞研究センター
2 日産化学
概要
ヒト多能性幹細胞(hPSCs)は、体のあらゆる組織や臓器に分化できる性質を持つため、再生医療や創薬研究に欠かせない存在です。これらの細胞を培養するためには、特別な栄養分を含んだ培地が必要で、その中でもFGF2というタンパク質は細胞を増やし、未分化の状態を保つために重要です。しかし、FGF2は高価で不安定なため、代わりになる物質の探索が求められています。
私たちは、独自の化合物ライブラリーを用いて、FGF2の働きを補うことができる物質を探しました。細胞の形や未分化状態のマーカーを指標にスクリーニングを行い、有望な化合物については長期間の培養実験や、体細胞から人工多能性幹細胞(iPS細胞)をつくる効率の評価も行いました。また、その化合物が細胞内でどのようなシグナル経路を活性化するかも解析しました。
その結果、NN15-017という新しい化合物を見出しました。この化合物を使うと、培地中のFGF2の必要量を5分の1に減らすことができ、さらにヒトiPS細胞の作製効率を2〜3倍に高めることが分かりました。解析の結果、NN15-017はFGF2の下流で働くMAP/ERK経路を活性化し、さらにHippo-YAP経路にも影響を与える可能性が示されました。
この成果は、より安価で安定した幹細胞培養法の開発につながり、再生医療やiPS細胞の研究を加速させることが期待されます。

図1:本研究で発見された化合物NN15-017を用いることで、ヒト多能性幹細胞の未分化増殖を促進し、ヒトiPS細胞の作成効率を高めることができます。
