| 2025年12月16日 MHCクラス1分子によって提示されるリポペプチド抗原はダイナミックな構造変化を起こし、活性の強さを変化させる |
森田大輔1、藤井俊樹2、井貫晋輔2, 3、鈴木拓1、三上文三4, 5、杉田昌彦1
(1 京都大学医生物学研究所細胞制御分野、2 京都大学薬学研究科創薬有機化学分野、3 徳島大学大学院医歯薬学研究部創薬有機化学分野、4 京都大学生存圏研究所森林代謝機能化学分野、5 京都大学エネルギー理工学研究所エネルギー構造生命科学研究分野)
Lipopeptide ligands captured by MHC class I molecules undergo dynamic conformational changes that affect their antigenic strength.
Journal of Biological Chemistry (2025)
概要
ウイルスタンパク質へのNミリスチン酸修飾反応はウイルスの病原性に関わる重要な修飾反応です。近年の研究からこのNミリスチン酸付加を受けたウイルスタンパク質のN末端断片、すなわち「リポペプチド」に対する新しい獲得免疫応答の存在が明らかになってきました。リポペプチド抗原はMHCクラス1分子によって特異的なT細胞受容体を発現する細胞傷害性T細胞へと提示されます。一方、従来のペプチド抗原(8-11アミノ酸長)とは異なり、僅か4-5アミノ酸長しかないリポペプチド抗原がどのようにしてT細胞によって特異的に認識されるのか、その詳しいメカニズムは不明でした。
本研究では計7種類のリポペプチド:MHCクラス1複合体のX線結晶構造を決定し、アミノ酸配列の異なる高活性リポペプチドと低活性リポペプチドとの間で結合様式を比較しました。その結果、高活性リポペプチドではエピトープが露出され、T細胞による認識が可能となっていた一方、低活性リポペプチドではコンフォメーション変化により、同エピトープが抗原結合溝の中に埋もれ、T細胞による認識が出来なくなっていました(図)。また、このダイナミックな構造変化は計算化学(分子動力学計算)によっても裏打ちされました。これらの事実からリポペプチド抗原におけるアミノ酸配列はT細胞エピトープの露出効率を制御することで抗原活性を規定していることが示されました。本研究成果は非ペプチド抗原の免疫認識の理解を深める重要な知見であるとともに、新しいワクチンプラットフォーム(リポペプチドワクチン)の開発に寄与するものとなります。

図: MHCクラス1に結合したリポペプチドのコンフォメーション変化
A. アカゲザル由来リポペプチド提示MHCクラス1(Mamu-B*05104)に結合したSIV Nefタンパク質由来C14nef4リポペプチド(左上)と各アナログにおける結合コンフォメーションの比較。高活性リポペプチド(上段)では、T細胞エピトープが露出されているのに対し(白矢尻)、低活性リポペプチドでは同エピトープが抗原結合溝の中に埋もれている(黒矢尻)。
B. リポペプチド抗原のコンフォメーション変化の模式図。
