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2016年度 共同研究課題達成状況

【1】霊長類P3実験として計4件の研究を行った(免疫不全ウイルス(SIV及びサル指向性HIV-1(stHIV)を使った)に関する研究 3件、インフルエンザウイルスに関する研究1件)。

1.徳島大学大学院医歯薬学研究部足立昭夫教授と遺伝子工学的に構築したアカゲザル指向性R5 HIV-1(HIV-1rmt)クローンをアカゲザル個体に単独あるいは混合感染させた(それぞれ1個体)。いずれの感染個体でもウイルス複製が確実に観察されたが、低レベルであった。この実験と並行して、プロトタイプウイルスMN5/LSDQgtu (5gtu)を比較対照として、5種類の新規R5 HIV-1rmtクローンウイルスをアカゲザルリンパ球細胞株M1.3Sに接種し長期培養を行った。M1.3S長期感染細胞から増殖効率が標準クローン5gtuより顕著に向上した分子ウイルスクローンの取得に成功した。(64th Annual Meeting of the Japanese Society for Virology, 2016年発表)

2.東京大学医科学研究所河岡義裕教授とサルモデルを使ったインフルエンザウイルスのエアロゾル感染系の確立を試みた。市販のネブライザーを用いてエアロゾル化した高病原性H5N1鳥インフルエンザウイルスをカニクイザルに噴霧し、肺でのウイルス増殖の様子を調べた。エアロゾル化したウイルスを投与したサルでは、通常の投与方法によってウイルス液を接種したサルに比べて、ウイルスが全ての肺葉に効率よく分布することが分かった。(日本獣医学会、2016年発表)

3.京都大学霊長類研究所明里宏文教授と長期stHIV潜伏感染モデルを用いたリザーバー解析を行った。潜伏感染期は優勢な獲得免疫応答によりウイルス増殖が制御される一方、それに対して逃避変異を誘導することにより潜伏感染が維持されること、さらに濾胞性ヘルパーT(TFH)細胞が感染の場となっていることを示唆する知見を得た。本霊長類モデルは潜伏感染機構の詳細な解析に大きく寄与すると共に、リンパ節中のTFH細胞におけるプロウイルスDNA量を指標とすることでshock and kill療法などHIV感染症の根治に向けた新規治療法の有効性や安全性の検証に有用なモデルとなると期待される。(34th Annual Symposium on Nonhuman Primate Models for AIDS、2016年発表)

4.国立感染症研究所エイズ研究センター俣野哲朗センター長とSIV感染サルにおける感染免疫学的解析データを蓄積した(Sci. Rep. 6:30153、2016)。安楽殺解剖時のみでなく直腸生検時に採取したサンプルも用い、経時的な粘膜T細胞反応解析系を構築した。SIVの伝播によって、MHC関連SIV変異の蓄積およびウイルスのin vitro複製能低下が生じることを明らかにした。一方、サル末梢血より分離したCD8陽性T細胞由来のiPS細胞より樹立した非特異的CD8陽性T細胞のサルへの導入を試みた。

【2】マウスP3感染実験として計1件の研究を行った(ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)に関する研究1件)。

1.京都大学医学研究科血液腫瘍内科学の高折晃史教授とヒト化マウスを用いてのHIV潜伏感染動物モデルを開発するための基礎研究を行った。2種の蛍光タンパク質を発現するDuoFluo HIVとVpxを用いた静止期T細胞への遺伝子導入法を用いて、より効率的に潜伏感染をモデル化できるか検討した。Vpxを用いた方法は潜伏感染効率を増加させなかった。DuoFluo HIV(RGH)ではヒト活性化CD4陽性T細胞において3−4%のウイルス産生感染、1−3%ほどの潜伏感染分画が得られた。二種の蛍光タンパク質の配列相同性から相同組換えが起こっていたため、新たな蛍光タンパク質の組み合わせのDuoFluo HIV(MKO)を入手した。細胞株及び初代培養T細胞を用いて条件を検討中で、潜伏感染細胞のRNAseqを予定している。

【3】ウイルス・生命科学研究を計22件行った(ウイルスに関しては、HTLV-1研究2件、HIV/SIV研究2件、インフルエンザウイルス研究2件、ボルナウイルス研究1件、エボラウイルス研究1件、デングウイルス研究2件及び肝炎ウイルス研究1件。ウイルス研究の基盤となる生命科学に関しては、自然免疫研究3件、RNA輸送に関する研究1件、神経組織の分化調節機構に関する研究2件、細胞分裂軸に関する研究1件、細胞膜に関する研究2件、獲得免疫反応の日内変動する研究1件、結核菌脂質免疫の研究1件)。

1.国立感染症研究所渡士幸一主任研究官と独自に樹立した不死化ヒト肝細胞HuS-E/2細胞にB型肝炎ウイルス(HBV)感染受容体であるNTCP分子を発現させた細胞株E/NtG8細胞をCellbedを用いた立体培養することで、HBVの感染増殖を再現する非がん細胞を用いた培養系の構築に成功した。抗HBV薬のスクリーニングを同時に進めていたところ、脂肪酸生合成系酵素阻害薬によりHBV粒子産生が抑制されることを明らかにした。さらなる検討から長鎖飽和脂肪酸の産生がHBV粒子産生に関与することを明らかにした。(Biochem. Biophys. Res. Commun. 475: 87-92, 2016)

2.千葉大学医学研究院植松智教授と腸管粘膜固有層の解析を行った。通常は絨毛の粘膜固有層に局在する好酸球は、粘膜下層には殆ど認められない。ところが、γ線腹部限局照射12週のBalb/Cのマウスにおいては、線維化している漿膜下の粘膜下層に好酸球の著明な浸潤が認められた。そこで、好酸球を欠失するΔdblGATAマウスを解析した結果、腸管粘膜固有層の好酸球が完全に消失していることを確認した。放射線による線維化に好酸球が必須の役割を果たすことが分かった。(未発表)

3.鹿児島大学共同獣医学部堀江真行特任助教とコウモリゲノムのスクリーニングにより、Eptesicus fuscusおよびMiniopterus natalensisのゲノムに、それぞれ大きなORFを持つEBL配列があることを突き止めた。分子進化学的解析により、それらのEBL配列は何らかの機能を持ちうることを明らかにした。さらに、Eptesicus属およびMiniopterus属コウモリの諸臓器を採取し、上記のEBLがmRNAとして転写されていることを明らかにした。(Sci. Rep. 6, 25873, 2016)

4.九州大学生体防御医学研究所吉開泰信教授と内在性のグルココルチコイド(GC)がIL-7Rの発現を制御しているのかどうかを明らかにするために、グルココルチコイド受容体(GR)結合モチーフ変異マウスとT細胞特異的なGR遺伝子破壊マウスを解析した。血中のGC濃度の変動と呼応して、T細胞のIL-7RとCXCRの発現レベルが日内変動を示したが、変異マウスではこの変動が消失した。さらに、脾臓のT細胞数が夜に増加し昼に減少する一方、変異マウスではこのような日内変動が見られなかった。リステリア菌を感染させると、夜の場合にはCD8 T細胞の応答が高くなるが、変異マウスではこの変動が消失した。以上の結果から、GCはIL-7RとCXCR4の発現を誘導することで、T細胞の体内分布と免疫応答を制御していることが示された。

5.東海大学医学部中川草助教とエボラウイルスのZaire種の GP遺伝子147配列(重複配列を除いた)をデータベースより取得し、非同義置換(dN)と同義置換(dS)の進化速度の比率(dN/dS)を計算し、正の淘汰を受けた、すなわち生存に有利な突然変異として集団に広がったアミノ酸置換サイトを推定した。その結果、2つのアミノ酸サイトで統計的に有為な正の淘汰(A82VとT544I)を同定した。また、2014-15年の西アフリカにおけるアウトブレイクで流行した Makona 株の全ゲノム配列を用いた系統解析では、これらの二つの変異体の集団への広まり方が、まったく異なることを発見した。(Genes Cells. 22:148-159, 2016)

6.UCLA AIDS instituteのDong Sung An准教授とヒトHPRTとCCR5に対するCRISPR/Cas9発現レンチウイルスベクターを作製したが、このベクターの感染価が非常に低いことがわかった。そこで、センダイウイルスベクターの使用に変更した。薬剤による選択なしで、80%を超える効率的なCD34陽性ヒト血液幹細胞へ遺伝子導入に成功し、CCR5発現抑制が得られた。(未発表)

7.横浜市立大学学術院国際総合科学群禾晃和准教授と細菌型S2Pタンパク質の解析を行った。このタンパク質ホモログの多くは、ペリプラズム側には可溶性のドメインをもつが、細胞質側の可溶性ドメインには短いループで構成されると予測されている。膜タンパク質は一般に可溶性ドメインのサイズが大きい方が結晶化しやすいと考えられることから、細胞質側に変異を導入し、抗体断片を結合させることとした。その結果、変異導入後も分酸状態が良好で、また、抗体とも強固に結合する試料が得られた。(Methods Mol. Biol. 1493: 57-72, 2017, Genes Cells, 印刷中)

8.沖縄科学技術大学院大学杉田征彦博士研究員と酵素反応中における野生型インフルエンザウイルスRNPの三次元構造を解析することによって、機能中のRNPの構造変化機構の一端を明らかにした。また、均一な構造を持つ組換えRNPの細胞内再構築法・精製法を確立しつつある。現在は、クライオ電子顕微鏡内での撮影および単粒子解析法の適用に向けて、精製法と氷包埋法の最適化を行っている。(Microscopy and Microanalysis 22: 66-67, 2016)

9.慶應義塾大学先端生命科学研究所井上浄特任准教授とSLOT法に必要な機材のセッティングならびにデータ解析機器のセッティングを行った。またインフルエンザウイルスのHA抗原を用いてマウスに免疫を行い、そのマウスの2次リンパ組織を用いてSLOTを行った。SLOTを行ったマウスにおいてHA抗原に対する抗体の産生が認められ、今後亜型交差性について検討を進める。(未発表)

10.Korea Brain Research Instituteの小曽戸陽一室長と条件検討のため主にヒト培養細胞を用い、1)染色体の一部を蛍光標識するための諸技術(蛍光色素取り込み、およびゲノム編集技術)の検討、2)超解像顕微鏡を活用した染色体ダイナミクスの新規培養基質上でのライブ観察を順次共同研究として遂行し、いずれも期待通りの成果を収めた。本年度の成果は、平成29年度に計画している神経分化過程にある幹細胞の染色体ダイナミクスの解析に活用する。(未発表)

11.川崎医科大学医学部齊藤峰輝教授と神経抗原特異的TCRとTaxあるいはHBZのダブルTgマウス(Tax-2D2-TgまたはHBZ-2D2-Tg マウス)の一部は、6-8週齢でHTLV脊髄症(HAM)類似の下肢対麻痺を自然発症した。病理組織学的解析では、上部胸髄から仙髄にかけて、くも膜下腔から脊髄実質にわたるほぼ左右対称性の細胞浸潤を認めた。浸潤細胞はCD4主体であり、Iba1染色により、局所のミクログリアが活性化していることが示唆された。また、発症マウスでは、未発症マウスと比較して血漿中CXCL10濃度の有意な上昇を認めた。(18th International Conference on Human Retrovirology 2017)

12.帝塚山大学現代生活学部藤原永年教授と抗酸菌に関する解析を行った。グルコースモノミコール酸は抗酸菌感染に伴い、宿主生体内に存在するグルコースを基質として新生される抗酸菌細胞壁糖脂質であり、感染成立の優れたマーカー分子である。本研究において、グルコースモノミコール酸合成酵素・グルコース基質複合体のX線結晶構造を決定することに成功した。また、グリセロールモノミコール酸は抗酸菌潜伏感染と連動して合成される細胞壁脂質である。本研究において、グリセロールモノミコール酸が宿主自然免疫受容体Mincleを介して慢性肉芽腫応答を惹起することを明らかにした。(未発表)

13.東京都医学総合研究所日紫喜隆行主任研究員とデングウイルスに関する解析を行った。予めインフルエンザウイルスのNS1タンパク質を細胞内で発現させておくとデングウイルスのインターフェロンαに対する感受性が低下することが明らかとなった。そして、デングウイルスゲノムにインフルエンザNS1遺伝子を挿入した組み換えウイルスを作製し性状解析を行ったところ、作製したウイルスの増殖能がほぼ親株と同程度であったが、インターフェロンαに対する感受性が親株と比較し顕著に低下することが示された。(未発表)

14.京都大学医学研究科本田哲也講師と細胞周期をライブイメージングできるマウスを用いて、非妊娠・妊娠期マウス腹側皮膚を二光子顕微鏡で解析したその結果、S/G2/M期の細胞の割合が妊娠期に有意に上昇することが分かった。また、表皮幹細胞をラベルし細胞系譜解析を行ったところ、妊娠の進行に伴い、幹細胞コロニーが拡大する現象が観察された。また、幹細胞の分裂様式が妊娠期では変化することを見出した。(第65回日本細胞生物学会大会、2016年)

15.近畿大学薬学部藤原俊伸教授とRNA結合タンパク質に関する解析を行った。CCCH-type zinc-finger domainを有するRNA結合タンパク質にはRegnase-1を始め自然免疫細胞においてサイトカイン産生の転写後制御に関わるものがある。本研究では、このタンパク質群が自然免疫細胞においてサイトカインmRNA翻訳に与える影響を検討した。マウスマクロファージにToll-like receptor刺激を行いそのCell lysateをショ糖密度勾配による超遠心を用いた細胞分画し、共同研究でPolysome分画に存在するmRNAの変化を解析した。その結果、マクロファージ刺激により、Polysomeに存在するサイトカインmRNAの割合が亢進することが明らかとなった。(Cell, 161:1058-1073, 2015)

16.理化学研究所村川康裕ユニットリーダーとCLIP法を行った。本手法はRNA結合タンパク質が認識するRNA配列や構造の解析に重要な手法である。本研究では、CCCH型Zinc fingerを持つRNA結合タンパク質のいくつかに関しHITS-CLIP解析を行った。その結果、タンパク質に結合するRNAの精製に成功し、これにアダプターを付加、次世代シークエンサーによるシークエンスを行った。今後、このデータを解析していく予定である。(未発表)

17. 熊本大学発生医学研究所畠山淳助教とカニクイザル胚の脈絡叢に特異的に発現する分泌因子を複数同定した。これらの因子が霊長類の神経幹細胞の増殖にどのような作用があるのか検討した。ヒトES由来の神経幹細胞を用いて増殖を促す因子を選定し、その内の1つについて詳細に解析し、その因子が霊長類の脳の拡大化に一部貢献していることを示唆するデータを得た。このことから、脳脊髄液に含まれる因子の違いが脳の種間差創出に関わることが強く示唆された。(未発表)

18.大阪医科大学予防社会医学講座鈴木陽一講師とデングウイルス抑制分子であると見出したRyDENについて解析をおこなった。この分子はその中央領域を介してPABPC1と結合し、その結合は RyDENの抗デングウイルス活性の発揮に重要であることがわかった。In vitro実験の結果から、RyDENは非特異的なRNA結合性タンパク質であるものの、デングウイルス RNA への結合特異性はPABPC1の存在によって高まることが明らかとなった。(PLoS Pathogens 12:e1005357, 2016)

19.藤田保健衛生大学総合医科学研究所前田明教授と 転写誘導可能なciRS-7を含むcircRNAを発現するレポータープラスミドを作製し、ヒト培養細胞を用いて細胞質局在機構を解析した。培養細胞の細胞生物学的実験とアフリカツメガエルの微量注入実験により、circRNAが細胞分裂時での拡散ではなく、能動的に核外輸送されていることを明らかにした。さらに、その核外輸送経路は、mRNA核外輸送経路に関与する因子TAPに依存している根拠が得られ、mRNA核外輸送経路と類似のメカニズムが関与していることがわかった。(未発表) 
20.京都大学医学研究科伊吹謙太郎准教授と3〜5歳令のアカゲザルから骨髄液約4 ml/ 頭を採取し、全骨髄細胞(一部はその後CD4+細胞をビーズ法により除去)を分離した。これらをNOGマウス移植後、サル免疫細胞の生着が認められたマウス(CD4除去全骨髄細胞移植マウス2匹、全骨髄細胞移植マウス1匹)に対してSIVmac239株 1.5×106 TCID50/匹を腹腔内接種し、SIVの感染動態を解析した。SIV接種後1週目より両群のマウスの末梢血中でSIVRNA及びDNAが検出された。さらにSIV感染後9-10週で剖検したマウスの肺、脾臓、腸間膜リンパ節、胸腺等のリンパ組織及び子宮においてSIV DNAが検出され、全身でSIV感染が成立していることが明らかとなった。(第63回日本ウイルス学会学術集会、2016年)

21.久留米大学医学部大島孝一教授とHTLVがコードしているHBZにより発現誘導されるCCR4のATL病態における意義について、国際誌Cancer Researchに発表した(Cancer Res, 76:5068-5079,2016)。ホジキン病様ATL症例のクローナリティに関して解析を行った。

22.近畿大学生物理工学部江口陽子講師と大腸菌ヒスチジンキナーゼセンサー PhoQ のリガンド結合に関する研究をおこなった。二成分情報伝達系 PhoQ/PhoP 系のヒスチジンキナーゼセンサー PhoQ の活性化は、サルモネラ属菌などの病原菌の病原性発現に関わる。大腸菌では膜タンパク質である SafA が、同じ内膜上に局在する PhoQ に直接結合することで PhoQ を活性化する。PhoQ-SafA 相互作用を解析するに当たり、SafA の検出が困難であることと、レポーターアッセイにおける PhoQ タンパク量の株間での差が問題であった。SafA の検出に関しては SafA にタグを付けることで解決し、PhoQ の発現量の差については phoQ 5’末端の制限酵素サイトの有無に起因することが明らかになった。この2つの問題が解決され、現在、SafA と 変異型 PhoQ の相互作用を解析している。(未発表)

平成28年度共同研究課題成果報告書はこちらをご覧ください。