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2018年度 共同研究課題達成状況

【1】霊長類P3実験として計3件の研究を行った。

1. 国立感染症研究所 エイズ研究センター 俣野哲朗センター長と、サルエイズモデルにおけるCTL の腸管感染防御能に関する研究を行った。平成29年度までの研究を発展させ、SIV Gag/Vif断片連結抗原発現センダイウイルス(SeV)ベクターワクチン接種サルにおけるGag/Vif特異的CD4陽性T細胞反応誘導を伴わないGag/Vif特異的CTL反応誘導を確認した。また、直腸生検サンプルを用い、腸管粘膜Gag/Vif特異的CTL反応誘導を確認した。さらに、一部のサルにおいてSIV経直腸接種実験を開始し、ワクチンの感染抑制効果を示唆する結果を得た。

2. 京都大学 霊長類研究所 明里宏文教授と、HIV-1感染症の根治を目指した新規治療戦略の確立に向けた基礎研究を行った。10MA-1単独処理によりHIV/SIV潜伏感染細胞株およびサル末梢血細胞からのウイルス再活性化を認めた。興味深いことに、BET阻害薬であるJQ1を併用することにより10MA-1単独処理の場合と比較して相乗的なHIV/SIV再活性化能を示すと同時に、10MA-1による IL-8、TNF-α等の炎症性サイトカイン産生誘導活性が抑制されることを見出した。以上の結果より、10MA-1/JQ1併用によるLRAとしての有用性が示唆された。現在、カニクイザルにおける同薬剤の薬物動態試験および安全性試験を実施中である。

3. 京都大学 iPS細胞研究所 金子新准教授と、アカゲザルiPSC由来遺伝子改変細胞の生体内評価(新規治療開発のための、アカゲザルiPS由来遺伝子改変細胞移植によるウイルス感染モデル作製)を行った。アカゲザル由来iPS細胞と同細胞由来の造血幹細胞の血液分化能を検証するために、マクロファージ分化能をin vitroで検討した。アカゲザルiPS細胞から誘導されたマクロファージはM1タイプのマクロファージであり、大腸菌particleを貪食能やSIV感染感受性があることが明らかになった。また、感染防御能の付与を目的としたゲノム編集実験にも取り組んでおり、造血幹細胞移植を介したin vivo造血実験、感染実験の準備を進めている。

【2】マウスP3感染実験として計2件の研究をおこなった。

1. 東京大学 医科学研究所 感染症国際研究センター 佐藤佳准教授と、ヒト化マウスモデルを用いたHIV-1感染細胞のマルチオミクス解析を行った。GFPを発現するHIV-1をヒト化マウスに接種し、感染マウスのGFP陽性CD4T細胞(ウイルス産生細胞)とGFP陰性CD4T細胞(非感染細胞と潜伏感染細胞の混在)を、BSL3施設に設置したセルソーターを用いて分取した。さらに、BSL3施設に設置したC1(フリューダイム社)を用いてシングルセル化、RNA抽出、ライブラリ構築を行い、シングルセルRNA-sequencing解析を実施した。

2. 京都大学 大学院医学研究科血液・腫瘍内科学 高折晃史教授と、新規HIV-1治療法の確立を行った。デュアルレポーターウイルスをJurkat T細胞に感染させGFP陽性のウイルス産生分画とmKO2陽性潜伏感染分画をsortingし遺伝子発現解析を施行し、潜伏感染細胞特異的に発現が低下する遺伝子を32種同定した。初代培養T細胞を用いて遺伝子発現変化を検討中である。またEnv中和ナノボディ8万クローン・50クラスターより、74種のナノボディを精製し、中和活性を持つナノボディを3クローン得た。

【3】ウイルス・生命科学研究として計15件の研究を行った。

1. 大阪大学 医学系研究科 本田知之准教授と、ボルナウイルスベクターの産生効率の改良を行った。ボルナウイルスの効率的な産生のためには、ウイルスの粒子形成に関わるマトリックスタンパク質(M)の機能解析が必須である。本研究では、Mタンパク質の様々な変異体を作成した。Mタンパク質によるウイルス粒子形成系を用いて、Mタンパク質の中で粒子形成に重要な領域を決定した。また、Mタンパク質と相互作用する宿主タンパク質を質量分析により同定した。今後は、その宿主因子のノックダウンや過剰発現により、ウイルスの粒子形成が変化するか検討する予定である。

2. 国立感染症研究所 ウイルス第2部 渡士幸一主任研究員と、B型肝炎ウイルス制限因子活性化による抗ウイルス効果と薬剤開発への応用を行った。既存のHBV培養系を用いたHBV感染増殖阻害低分子物質のスクリーニングを行い、fasiglifamとbardoxolon methy (BARD)を見出した。であった。fasiglifamはNTCPと結合し、HBV感染抑制効果を示すものと考えられた。BARDは、Nrf2活性化剤だが、Nrf2依存的そして非依存的な機構でHBV pgRNA量を転写後に低下させことがわかった。

3. 横浜市立大学 大学院生命医科学研究科 禾晃和准教授と、抗体エピトープを挿入したS2Pホモログの機能評価を行った。S2Pホモログのペリプラズム領域に存在するPDZタンデムを可溶性断片として発現させ、複数のループ領域にPAタグと呼ばれる配列を挿入した変異体を作製した。そして、PAタグを特異的に認識するNZ-1抗体のFab断片を結合させた複合体試料を調製し、X線結晶解析を行うことで結合様式の解析を行った。その結果、PDZタンデムに多数存在するβ-ヘアピン領域が、PAタグを挿入し、NZ-1抗体の断片を結合させる部位として適していることが明らかになった。

4. 金沢大学 薬学系 檜井栄一准教授と、mTOR シグナルによる骨格形成制御を行った。間葉系幹細胞特異的なmTORC1不活性化マウスは、著明な四肢短縮という劇的な表現型を示し、mTORC1の骨格形成における重要性が個体レベルで明らかになった。さらにmTORC1不活性化間葉系幹細胞では、転写制御因子Sox9のタンパク質レベルが著明に抑制されていた。すなわち、間葉系前駆細胞のmTORC1はSox9の翻訳を直接的に制御することで、骨格形成を調節している可能性が示された。(Stem Cell Reports 2018)。

5. 東京理科大学 生命科学研究所 久保允人教授と、ステロイドホルモンによるヘルパーT細胞分化の制御機構に関する研究を行った。CD4-Creマウスとアンドロゲン受容体(AR)-floxマウスおよびエストロゲン受容体(ER)-floxマウスを交配し、T細胞特異的なARおよびER欠損マウスを作成した。このマウスにダニ抗原により喘息を誘発すると、T細胞特異的AR欠損マウスで喘息の症状が悪化していたが、ER欠損マウスではコントロールとほとんど差がなかった。したがって、アンドロゲンはT細胞に働いてTh2細胞への分化を抑制していると考えられる。

6. 神奈川県衛生研究所 微生物部 日紫喜隆行主任研究員と、デングウイルス感染症非ヒト霊長類モデル構築に向けた基盤研究を行った。デングウイルスの分子クローンにIRES (internal ribosomal entry sequence) 配列と共にインフルエンザNS1遺伝子を挿入した組み換えデングウイルス(NS1-DENV)の増殖能について、複数個体のアカゲザルから調整したPBMCに感染させ、培養上清中のウイルス力価を親株ウイルスと比較した結果、有意にNS1-DENVの複製能が高いことが明らかとなった。

7. 京都大学 医学研究科 伊吹謙太郎准教授と、サル免疫細胞を持つマウスにおけるSIV感染病態の解析を行った。SIVpbj株接種サル化マウスでは腸管の組織学的変化など特異的な病態が観察された。さらにリンパ系組織や腸管だけでなく脳においてもウイルス遺伝子の存在が明らかとなった。また組織学的解析から脳内の血管周囲に多核性巨細胞様の細胞集塊が認められた。この組織像はAIDS脳症の特徴的所見とされている。以上は、SIVpbj株接種サル化マウスが感染初期の腸管症状だけでなく、AIDS脳症をも反映できる動物病態モデルになり得る可能性を示唆するものである。

8. 慶應義塾大学 先端生命科学研究所 井上浄特任准教授と、改良型SLOT法を用いた病原性ウイルスに対する高機能抗体の創出を行った、本年度では、昨年度までのインフルエンザウイルスのHA抗原に加え、あらたな抗原としてラッサウイルスのVLPを用いた検討を進めてきた。新規の抗原のため、まずは通常のSLOT法による条件検討と抗体産生を確認した。今後、改良型SLOT法を用いた抗体作成へと進めていく。

9. 東海大学 医学部 中川草助教と、大規模塩基配列を活用したレンチウイルスと宿主因子の共進化メカニズムの解明を行った。北米大陸に生存するネコ科のピューマとボブキャットに感染するFIV、ピューマレトロウイルス(PLV)には2つのサブタイプが存在する。PLVサブタイプAは両方に感染するが、サブタイプBはピューマのみにしか感染しない。我々はこのサブタイプ間の感染宿主の違いを調べるために、宿主の抗ウイルス因子APOBEC Z1の多型に着目して解析を行った。その結果、178番目のピューマでの変異(T->M)がPLVのVif遺伝子の分解できないことが関連していることを明らかにした。

10. 工学院大学 工学部 金田祥平助教と、オプトジェネティクスとマイクロフルイディクスを用いた遺伝子発現ダイナミクスの制御を行った。
デバイスについては、炭素ナノ粒子含有シリコーンゴムを材料として採用することで、チャンバごとに異なる条件の光刺激入力を与え得るように改良した。また、チャンバのECMコーティングや細胞播種手順について仔細な条件検討を行い、最適化を行った。
細胞については、入力-出力関係がクローナルな性質を持つ安定株のセレクションを実施した。また、2入力(光刺激とTMP濃度を)に対する出力結果から、応答特性のシミュレータ構築に必要な伝達関数を求めた。

11. 大阪大学 大学院薬学研究科 齊藤達哉教授と、抗ウイルス応答における自然免疫機構の役割の解明を行った。RNAウイルスに対して誘導されるオルガネラを介した防御応答を担う因子を探索した。オルガネラ膜に局在するGTPaseであるRABファミリーに対するsiRNAを用いたスクリーニングから、ウイルス核酸センサーであるMDA5に依存的な防御応答において、RAB5Cが重要な役割を果たすことを見出した。

12. UCLA AIDS institute, UCLA School of Nursing のAn, Dong Sung 教授とCRISPR/CAS9システムを使った選択性抗HIV遺伝子治療法の開発研究を行った。CRISPR/CAS9による遺伝子編集システムとして、センダイウイルスベクターの利用の仮説の実証実験を行った。本共同研究では、遺伝子導入細胞の選択法としてHPRTを利用してCCR5遺伝子の編集によってHIV耐性血液幹細胞の作出をおこなった。

13. 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域 塚崎智也教授と、大腸菌BepAプロテアーゼの構造と機能に関する研究を行った。大腸菌BepAの全長構造を明らかにするため、X線構造解析およびX線小角散乱解析を行い、N末端側のプロテアーゼドメインとC末端側のTPRドメインが相互作用し、コンパクトな構造をとる事を示した。また、生化学的解析により、BepAが生体内の本来の局在場所(ペリプラズム)でも上記と同様な構造を取ること、BepAは、両ドメイン間の位置関係を大きく変化させることなく機能しうる事が示唆された。

14. 理化学研究所統合医療科学研究センターゲノム免疫生物学理化学研究所研究チームNicholas PARRISHチームリーダーと、マウスに内在化している内在性ボルナウイルス様配列(EBLN)由来piRNAの機能解明に関する研究を行った。まず、マウスゲノムにおけるEBLNの存在を検索し、既知のEBLN以外に新しいEBLNが存在しないことを確認した。また、脳で発現していると考えられるEBLN由来piRNAの機能を明らかにするために、ボルナ病ウイルスの脳内接種を行い、脳内でのウイルス動態を明らかにした。

15. 藤田医科大学 総合医科学研究所 前田明教授と、環状RNAの細胞内局在機構を明らかにし脳内環状RNAの謎に迫った。アフリカツメガエル卵母細胞へのプラスミドDNA注入実験を用いて、転写後にスプライシング反応によって環状化されたcircRNAが核から細胞質へ能動的に輸送されることを明らかにした。さらにcircRNAの輸送はmRNA核外輸送因子TAPに依存していることが競合阻害実験およびsiRNAによるノックダウン実験により示された。mRNA型輸送アダプター因子としてTREXがcircRNA輸送のアダプターであることが示唆された。