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2019年度 共同研究課題達成状況

【1】霊長類P3感染実験として計3件の研究を行った。

研究代表者: 国立感染症研究所エイズ研究センター センター長 俣野 哲朗
研究課題: サルエイズモデルにおけるCTLの腸管感染防御能に関する研究
研究成果: H30年度までの研究を発展させ、SIV Gag/Vif断片連結抗原発現センダイウイルス(SeV)ベクターワクチン接種サルのSIV特異的免疫反応解析を継続するとともに、SIV経直腸接種実験を推進し、感染防御効果を示す有望な結果を得た。Immuno-correlates解明に向け、SIV特異的T細胞反応のデータを収集・蓄積している。
研究代表者: 京都大学霊長類研究所 教授 明里 宏文
研究課題: HIV-1感染症の根治療法創出のための基礎・応用研究
研究成果: HIV持続感染カニクイザルへのART投与により血漿ウイルスRNA値が検出限界以下にまで低下し、投与中断によりウイルス血症へと回帰することが実証された。すなわちHIVはARTにより感染増殖が制御可能であること、ART中断によりリバウンドが生じることなどから、当該サルモデルはHIV感染者と同等な感染動態を示していることが明らかとなった。以上より本モデルは、shock and kill療法の前臨床試験における有効性評価に非常に有用であると考えられた。
研究代表者: 京都大学iPS細胞研究所 准教授 金子 新
研究課題: アカゲザルiPSC由来遺伝子改変細胞の生体内評価
研究成果: アカゲザル由来iPS細胞に対するCRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集の系を確立した。次に、アカゲザル由来iPS細胞にSHIVに対する感染防御能を付与する目的に、SHIVの感染受容体であるCCR5をノックアウトしたiPS細胞株を作成した(ΔCCR5 iPS細胞)。ΔCCR5 iPS細胞から分化誘導したマクロファージはSHIVに対する感染抵抗性を有していることをin vitroで確認した。

【2】マウスP3感染実験として計2件の研究をおこなった。

研究代表者: 東京大学医科学研究所感染症国際研究センター 准教授 佐藤 佳
研究課題: ヒト化マウスモデルを用いたウイルス感染細胞のシングルセル解析
研究成果: GFPを発現するHIV-1をヒト化マウスに接種し、感染マウスのGFP陽性CD4T細胞(ウイルス産生細胞)とGFP陰性CD4T細胞(非感染細胞と潜伏感染細胞の混在)を、BSL3施設に設置したセルソーターを用いて分取した。さらに、BSL3施設に設置したC1(フリューダイム社)を用いてシングルセル化、RNA抽出、ライブラリ構築を行い、シングルセルRNA-sequencing解析を実施した。
研究代表者: 京都大学大学院医学研究科血液・腫瘍内科学 教授 高折 晃史
研究課題: 新規HIV-1治療法の確立
研究成果: Duo-Fluo HIVをJurkat T細胞に感染させ潜伏感染細胞、ウイルス産生感染細胞、非感染細胞に分画し遺伝子発現解析を施行した。潜伏感染細胞特異的に発現が低下する遺伝子を30種同定し解析中である。またEnv中和ナノボディ8万クローン・50クラスターより、74種のナノボディを精製し、中和活性を持つナノボディを3クローン得ている。

【3】ウイルス・生命科学研究として計18件の研究を行った。

研究代表者: 国立感染症研究所ウイルス第二部 主任研究官 渡士 幸一
研究課題: 酸化ストレス応答転写因子Nrf2による肝炎ウイルス制御機構の解析および創薬への応用
研究成果: HBV培養系を用いたHBV感染増殖阻害低分子物質のスクリーニングからこれまでに見出しているbardoxolon methy (BARD)の抗HBV機構を解析した。BARDは、Nrf2活性化剤だが、Nrf2依存的そして非依存的な機構でHBV増殖を抑制することがわかった。またBARDの働きの一つはHBV pgRNA量を転写後に低下させろことであり、その効果は転写そのものの抑制ではなく、pgRNAの半減期を低下させることであることがわかった。
研究代表者: 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 教授 奥野 浩行
研究課題: 生後脳神経新生による記憶痕跡回路の制御機構解明
研究成果: 海馬歯状回における記憶痕跡細胞を可視化するため遺伝子発現レポータートランスジェニックマウスを用いて記憶形成および想起後のレポーター陽性細胞を組織学的に計測した。また、新生神経細胞を操作するための基盤技術に関して、影山教授および京都大学・生命科学研究科の今吉格教授とともに開発を進めた。さらに、自由活動中のマウス歯状回の神経活動を可視化するイメージング系を確立した。
研究代表者: 横浜市立大学大学院生命医科学研究科 准教授 禾 晃和
研究課題: 抗体断片と複合体を形成したS2Pホモログの機能評価
研究成果: 細菌型S2Pホモログの可溶性断片を免疫して取得したモノクローナル抗体をパパイン処理によってFab化し、まず、抗原断片との共結晶化を行い、複合体の結晶構造を決定することで、それぞれの抗体が抗原のどの領域をエピトープとして認識するかを詳細にしらべた。そして、全長タンパク質とFab断片の複合体試料を作製して、ネガティブ染色法による単粒子解析を行った。
研究代表者: 大阪大学大学院生命機能研究科 教授 立花 誠
研究課題: CRISPR/Cas9による長鎖DNAノックインマウス作製法の確立
研究成果: ゲノム編集技術の進歩により、従来に比較して、遺伝子改変マウスの作製が容易になった。本申請研究では、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集技術を応用し、性決定遺伝子Sryの各種変異体(Flagタグノックインマウス、遺伝子欠損マウス、1アミノ酸変異マウス、トランスジェニックマウス)を作製し、その機能解析を行った。結果として、これまでに知られていない新規性決定領域を発見するに至った。
研究代表者: 金沢大学医薬保健研究域薬学系 准教授 檜井 栄一
研究課題: mTOR シグナルによる骨格の恒常性維持機構の解明
研究成果: 本研究では、mTORシグナル異常と難治性骨系統疾患発症との関連性を明らかにすることを目的とした。細胞特異的な遺伝子改変マウスの作製と解析により、軟骨細胞のmTORシグナルを活性化すると、脊椎側弯と胸郭異常を含む骨格形成異常が生じることを見い出した。さらに、mTOR活性化軟骨細胞において、骨格恒常性維持に関与する特定の転写因子群が著明に変動していることを明らかにした。
研究代表者: 京都府立医科大学・医学研究科 教授 八木田 和弘
研究課題: 概日リズム攪乱による生体防御機能の障害
研究成果: 一年以上の長期概日リズム撹乱マウスの末梢血、脾臓、リンパ節からリンパ球を単離し、まずフローサイトメトリーにて様々な細胞表面マーカーの発現を解析したところ、PD-1陽性CD44強陽性のCD4 T細胞(老化関連T細胞)とCD95陽性GL7陽性の胚中心B細胞(老化関連B細胞)の割合がコントロールマウスと比較して増加していた。さらに、炎症誘導性のIL-17を発現するCD4 T細胞(Th17細胞)の頻度が上昇していた。以上の結果から、概日リズムの撹乱により慢性炎症と免疫老化が加速することが明らかになった。
研究代表者: 大阪大学蛋白質研究所 特任研究員 杉田 征彦
研究課題: マイナス鎖RNAウイルス・リボ核タンパク質複合体構造の解明
研究成果: クライオ電子顕微鏡法によりマールブルクウイルスのNP-RNA複合体の構造解析を行い、その高分解能構造を決定した。明らかになった複合体構造から、NP-RNA相互作用部位およびNP-NP相互作用部位を見出した。これらの相互作用領域はマールブルグウイルスの粒子形成に重要であるほか、その形成が阻害されるとゲノムRNAの転写・複製を行うこともできなくなるため、重要な創薬ターゲットとなると考えられる。
研究代表者: Korea Brain Research Institute Lab Head 小曽戸 陽一
研究課題: Blastocystへの細胞移植効率を向上させる新規手法の開発
研究成果: 今年度は、マウスのBlastocystにES細胞を注入する際に、EGTAを発生に支障が無い濃度で添加することで、ドナー細胞がICMに取り込まれる条件を検討するための手法を確立した。具体的な実験として、1)使用する化合物(EGTA)濃度を検討し、20mMにおいて正常な胚発生の継続を確認した、2)移植されたマウスES細胞について、ICMへの生着確認のため蛍光物質を用いて標識・観察する手法の確立を行った。
研究代表者: 大阪大学大学院医学系研究科感染症・免疫学講座ウイルス学 准教授 本田 知之
研究課題: ボルナウイルスベクターからの遺伝子発現制御法の開発
研究成果: REVec-L2b9にレポーター遺伝子を導入したREVec-GLuc-L2b9は、テオフィリン濃度依存的にレポーター遺伝子発現を制御し、またその発現制御は可逆的であった。REVec-L2b9にsmall GTPaseの一種であるRac1を導入したREVec-Rac1-L2b9を用いて、テオフィリン濃度依存的に細胞膜上のひだ状構造の形成を制御することに成功した。
研究代表者: 慶應義塾大学先端生命科学研究所 特任准教授 井上 浄
研究課題: 病原性ウイルスに対する高機能抗体の創出
研究成果: 研究代表者が開発したSLOT法に改良を加え最適化した「SLOT法2.0」により、これまで以上に効率的に高機能抗体の取得が可能なる。本研究ではSLOT法2.0を用いて、病原性ウイルスに対する高機能抗体を創出するため、その各種条件について検討を行った。ウイルス抗原の種類および投与量と投与タイミング、免疫細胞に対する中和抗体の投与量やタイミングの条件を最適化することで、SLOT法2.0による抗体取得法を確立した。
研究代表者: 京都産業大学総合生命科学部生命科学研究科 准教授 川根 公樹
研究課題: 上皮細胞の終焉様式である細胞脱落の機構及び生理的意義の解析
研究成果: 哺乳類培養細胞を用いた解析により、ショウジョウバエを用いて得られていた知見である、細胞脱落における上皮バリアを維持するための細胞間接着の動態及び、細胞脱落の実行の推進力である可能性のある膜動態が同様に観察され、これらは種を越えて保存された細胞脱落における普遍的機構であることが示された。またこれに関与する遺伝子を明らかにした。
研究代表者: 京都大学大学院生命科学研究科 特定助教 山田 真弓
研究課題: レンチウイルスを用いたオリゴデンドロサイトの分化制御メカニズムの解明
研究成果: 新規に開発した光操作技術を搭載したレンチウイルスを用いて、培養神経幹細胞に光操作システムを導入した。転写因子Olig1/2の内在性のダイナミックな発現をタイムラプス顕微鏡により観察し、光操作技術によって人工的に再現するために、光照射条件の検討を行った。Olig1/2の様々な発現動態を誘導した際に、神経幹細胞の増殖や分化にどのような影響を与えるのかを観察した。
研究代表者: 長浜バイオ大学サイエンス学部 助教 阪上 起世
研究課題: AKT活性化による神経変性疾患の理解
研究成果: 京都大学ウイルス・再生医科学研究所の影山龍一郎教授との共同研究により、ユビキタスな発現が保証されているGt(Rosa)26Sor遺伝子座に、human AKT1あるいは活性型AKTを挿入した2系統のノックインマウスを作製する。現在、Gt(Rosa)26Sor遺伝子座にCAGプロモーター下にloxP-, frt-flanked STOPカセットとhuman AKT1あるいは活性型AKTを挿入したターゲティングベクター構築を試みている。
研究代表者: Department of Mathematics, National Tsing Hua University, Taiwan Professor Je-Chiang Tsai
研究課題: Determining structural conditions of reaction networks for diversity of dynamical behaviors of cells
(細胞の動的挙動の多様性を生み出すための反応ネットワークの構造的条件の決定)
研究成果: We improved and generalizde our theory to apply to broad range of biological behaviors. We accomplished our project by close discussions with Dr. Mochizuki by a visiting study at inFront, Kyoto Univ. We analyzed real biological systems, and show that our method is practical to understand mechanism for diversity of biological behaviors of reaction systems. We are writing a theoretical paper, where we show the achievements of generalization of our structural bifurcation analysis.
(本プロジェクトにおいて、我々が過去に開発した「構造分岐解析」理論を改良し、より広い力学挙動のクラスや、より様々な生物現象に適用できるようにした。申請者は、京都大学ウイルス・再生医科学研究所を訪問し、望月教授と議論することでプロジェクトを進めた。中心代謝系など実際の生物のシステムを解析し、反応システムの挙動の多様性を理解する上で、我々の手法が実用的であることを示した。共同研究の成果は、一般化構造分岐解析として、理論系の論文にまとめているところである。)
研究代表者: UCLA AIDS institute, UCLA School of Nursing Professor An, Dong Sung
研究課題: Develop a selectable anti-HIV-1 gene therapy vector using Sendai virus based CRISPR/CAS9 delivery system
(CRISPR/CAS9発現センダイウイルスベクターに基づく選択的抗HIV遺伝子治療法の開発)
研究成果: We developed Sendai virus (SeV) vectors to transiently express CRISPR/CAS9 for co-editing CCR5 and HPRT and testing the efficiency of HPRT/CCR5 editing in human CD34+ HSPC. We examined (1) the efficiency of SeV vector transduction in CD34+ HSPC, (2) determined the frequency of HPRT and CCR5 editing in CD34+ HSPC, (3) examined positive selection of HPRT-edited CD34+ HSPC with 6TG, and (4) determined the frequency of off-target sites in CD34+ HSPC.
(ccr5とhprt遺伝子編集用CRISPR/CAS9一過性発現センダイウイルスベクターを開発し、ヒトCD34陽性血液幹細胞において、これらccr5とhprtに対する遺伝子編集効果を検討した。本研究に関して、以下の検討をおこなった。(1)センダイウイルスベクターのCD34陽性血液幹細胞への導入効果(2)この細胞におけるhprtとccr5遺伝子編集頻度(3)hprt変異による6TG添加による選択的耐性率(4)CD34陽性血液幹細胞におけるオフターゲット頻度である。)
研究代表者: RIKEN Center for Integrative Medical Sciences Genome Immunobiology RIKEN Hakubi Research Team Leader PARRISH, Nicholas Fredric
研究課題: A CRISPR-based reporter of Borna disease virus RNA-to-RNA, virus-to-host gene flow
(内在性ボルナウイルス様配列に由来するpiRNAの免疫学的影響に関する研究)
研究成果: We determined that no new previously unannotated EBLNs are present in the mouse genome, obtained knock-out mice, and generated virus stocks for ongoing infection experiments to answer the remaining two questions.
(我々は、マウスゲノムには新たな未同定のEBLNが存在しないと判断した。そこで、ノックアウトマウスを作製し、感染実験のためのBoDV株のウイルスストックの作製を断続的に行った。)
研究代表者: 長崎大学熱帯医学研究所 助教 浦田 秀造
研究課題: 蛍光プローブを利用した高病原性ウイルスに対する創薬基盤研究
研究成果: リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス (LCMV)のZを複数個挟む形でSECFPとVenusを付加した融合タンパク質を作製することで、Z多量体化をモニターし、かつハイスループットスクリーニングに適したFRETプローブを開発した。本FRETプローブを用いて、PathogenBox400化合物をスクリーニングした結果、ヒット化合物を得た。得られたヒット化合物の内1つは、抗LCMV効果を示した。
研究代表者: 熊本大学 国際先端医学研究機構 特任准教授 佐田亜依子
研究課題: 皮膚の恒常性維持における表皮幹細胞のダイナミクス解析
研究成果: 妊娠マウスの腹部皮膚では、Tbx3陽性の基底細胞は分裂回数の多い細胞集団に属し、fast cycling表皮幹細胞から出現することが分かった。また、新陳代謝が早い肢裏の皮膚では、fast cycling表皮幹細胞とTbx3陽性細胞が基底層に恒常的に存在していた。Tbx3陽性細胞をラベルトレースした結果、この細胞集団は、妊娠期腹部に一過的に出現して出産後には分化して表皮から排出されることが分かった。一方、肢裏皮膚では自己複製能と多分化能を備えた幹細胞性を長期間維持することが分かった。このことから、Tbx3陽性細胞は、生理的変化や体表領域によって幹細胞性と細胞運命が変化する特性を持つことが分かった。現在、この特性変化を生み出す要因の解明を試みている。