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2021年9月7日
ボルナ病ウイルス2型(BoDV-2)由来ヌクレオプロテインがBoDV-1のポリメラーゼ活性を顕著に上昇させることを発見

神田雄大1,2、堀江真行1,3,*、小松弓子1,4、朝長啓造1,2,5

1京都大学 ウイルス・再生医科学研究所 RNAウイルス分野
2京都大学 大学院医学研究科 分子ウイルス学分野
3京都大学 白眉センター
4京都大学 K-CONNEX
5京都大学 大学院生命科学研究科 生体動態制御学分野
*現所属:大阪府立大学 大学院生命環境科学研究科 獣医学専攻 獣医微生物学教室

The Borna disease virus (BoDV) 2 nucleoprotein is a conspecific protein that enhances BoDV-1 RNA-dependent RNA polymerase activity
Journal of Virology (2021), DOI: 10.1128/JVI.00936-21

概要

ボルナ病ウイルス1型(BoDV-1)に由来するエピソーマルRNAウイルスベクター(REVec)は、細胞核での安全かつ長期的な遺伝子発現が可能な新規RNAウイルスベクターである。REVecは遺伝子治療や再生医療分野への臨床応用が期待されているが、従来のリバースジェネティクス法による人工合成では高力価のREVecを回収するまでに長期の日数が必要であり、これがREVecの研究開発の障害になっていた。そこで本研究では、迅速な感染伝播が報告されている近縁ウイルス、ボルナ病ウイルス2型(BoDV-2)に着目し、REVecの改良を試みた。まず、BoDV-2由来ヌクレオプロテイン(N)がBoDV-1のポリメラーゼ活性に及ぼす影響をミニレプリコンアッセイ法で調べた結果、BoDV-2由来NはBoDV-1のポリメラーゼ活性を約8倍上昇させることが示された。次に、BoDV-1とBoDV-2の間でアミノ酸残基を置換した組換えタンパク質を用いた実験により、BoDV-2由来N の30番目のアミノ酸(セリン)がポリメラーゼ活性の上昇に寄与していることを特定した。そこでBoDV-2由来Nを用いてリバースジェネティクスを実施すると、高力価のREVecを回収するまでに要する日数を大幅に短縮できることが明らかになった。また、REVecのゲノム配列内のN遺伝子をBoDV-2由来N遺伝子に置換したキメラ型REVec(REVec-N2)を合成し、遺伝子発現効率を検討した結果、REVec-N2は従来型のREVecに比べ、約2倍の転写活性を示すことが明らかになった。本研究では、BoDV-2由来NはBoDV-1のポリメラーゼ活性を顕著に上昇させることを明らかにし、この特徴を応用することでリバースジェネティクス法によるREVecの人工合成を効率化し、遺伝子発現効率が高いキメラ型REVec、REVec-N2を開発することができた。

図. REVec-N2の遺伝子発現効率の測定
A) REVec、REVec-N2のゲノム配列の模式図. B) 蛍光顕微鏡による感染細胞におけるGFP発現の観察. C) RT-qPCR法によるGFP遺伝子発現量の定量