医生研について
研究について
ホーム > 研究成果 > 公共データの再活用によるRNAウイルス配列の探索
2021年8月31日
公共データの再活用によるRNAウイルス配列の探索

川崎純菜1,2、小嶋将平1,*、朝長啓造1,2,3、堀江真行1,4,5

1 京都大学 ウイルス・再生医科学研究所 RNAウイルス分野, 2 京都大学 大学院生命科学研究科 生体動態制御学分野, 3 京都大学 大学院医学研究科 分子ウイルス学分野, 4 京都大学 白眉センター, 5 大阪府立大学 大学院生命環境科学研究科 獣医学専攻 獣医微生物学教室 * 現所属:理化学研究所 生命医科学研究センター

Hidden Viral Sequences in Public Sequencing Data and Warning for Future Emerging Diseases
mBio(2021)doi; 10.1128/mBio.01638-21.

概要

ウイルス感染症は公衆衛生上の脅威となり、社会・経済活動に大きな打撃を与えてきた。動物におけるウイルス探索は感染症対策の一環として重要であるが、サンプル収集にかかる労力や費用対効果といった問題により、大規模な調査の実施は困難である。そこで本研究では、公共データベースに蓄積された膨大な量のRNA-seqデータを再活用し、哺乳類と鳥類におけるウイルス感染状況の調査、および新規ウイルスの同定を試みた。はじめに、46,000を超えるRNA-seqデータにおいてウイルス配列を探索し、脊椎動物が宿主と考えられるRNAウイルスの感染を同定した。ウイルス検出率は宿主動物種によってさまざまであったが、鳥類において比較的高頻度にウイルスが検出された。こうした傾向は、今後ウイルス探索を行う動物種を決定する際に考慮すべき要素である。さらに、家畜や野生動物・実験動物から得られたRNA-seqデータにおいて新規RNAウイルスを発見した。これらの新規ウイルスの中は、ヒトに肝炎や下痢・脳炎を起こすことが報告されているウイルスと遺伝的に近縁なウイルスも存在した。さらに、発見した新規ウイルスの蔓延状況を調査するために、世界各地の動物から採取されたRNA-seqデータを用いて新規ウイルスの検出を試みた。その結果、本研究で発見した新規へパトウイルスが、中国やモンゴルで採取されたヤギから検出され、このウイルスの感染が複数の地域に広がっている可能性を示した。以上のように本研究では、公共データの再利用によりウイルス感染調査を効率的に実施可能であることを示した。