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2021年2月22日
皮膚拡張時における増殖能の高い表皮幹細胞の出現には血管が重要であることを発見

一條遼1, 、蒲田未央2、木戸屋浩康3、村松史隆3、石橋理基1、阿部浩太1,4、筒井仰5、久保嘉一1, 4、飯塚ゆい1, 4、北野さつき6、宮地均6、久保田義顕7、藤原裕展5、佐田亜衣子8、山本拓也2、豊島文子1, 4

1)京都大学ウイルス・再生医科学研究所組織恒常性システム分野 2)京都大学iPS細胞研究所 3)大阪大学微生物病研究所4)京都大学大学院生命科学研究科 5)理研生命機能科学研究センター 6)京都大学ウイルス・再生医科学研究所付属感染症モデル研究センター 7)慶応義塾大学医学部 8)熊本大学国際先端医学研究機構

“Vasculature-driven stem cell population coordinates tissue scaling in dynamic organs”

Sci. Adv. 7, eabd2575, 2021. Doi: 10.1126/sciadv.abd2575

概要

皮膚は、体の生理変化や体形変化に応じて拡張・収縮するダイナミックな臓器である。このような生理的な皮膚リモデリングは、皮膚組織を構成する多様な細胞の不均一性、階層性、相互作用の時空間的な変化により誘導されると予想されるが、それを担う多細胞ネットワークや制御機構は不明である。皮膚は表皮、真皮、皮下組織から形成され、表皮はさらに角質層、顆粒層、有棘層、基底層の4層に分類される。表皮基底層には表皮幹細胞が存在し、増殖と分化を繰り返すことで表皮の恒常性を維持する。

我々は以前、急速に拡張する妊娠期の腹部皮膚において、表皮幹細胞から増殖性の高いTbx3陽性の基底細胞が産生されることを見出し、この細胞群の出現は真皮のaSMA+Vimenin+細胞が分泌するIgfbp2などの液性シグナルに依存することを報告した(Ichijo et al., Nat Commun. 2017)。今回、我々はTbx3+基底細胞の細胞運命と出現機構を解析した。まず、Tbx3+基底細胞は周囲の細胞にADAM8の発現を誘導し、EGF-ERKシグナルを活性化して表皮増殖クラスター(EPC)を形成することを明らかにした。また、単一細胞系譜解析の結果から、Tbx3+基底細胞は出産後には分化して表皮から排除される運命をたどることが分かった。一方で、足底部表皮のように増殖性が高い領域ではTbx3+基底細胞が幹細胞として存在し、EPCを恒常的に維持していた。Tbx3+基底細胞の時空間に依存した出現機構を明らかにするため真皮の単一細胞遺伝子発現解析を実施した結果、妊娠期には血管新生に関与する血管クラスターの割合上昇が認められた。実際、妊娠期では腹部皮膚で血管新生が観察され、かつ足底部皮膚では恒常的に血管網が発達していた。また、血管新生を阻害すると妊娠期におけるTbx3+基底細胞とEPCの出現が抑制され、血管新生を誘導するとTbx3+基底細胞が誘導された。さらに腹側皮膚に張力を負荷して伸展させたところ、血管新生が誘導され、それに依存してTbx3+基底細胞とEPCが出現した。また、真皮のaSMA+Vimenin+細胞の出現とIgfbp2の発現も、血管新生に依存することが分かった。これらの結果から、血管が真皮と表皮のリモデリングを誘導し、体表領域や生理変化に合わせた皮膚の形態や伸展を制御していることが明らかとなった(図1)。これらの成果は皮膚の再生医療に貢献できると考えられる。

本研究は、筑波大学生命領域学際研究センター・熊本大学国際先端医学研究機構との共同利用・共同研究による成果である。

図1 皮膚拡張時における表皮幹細胞のダイナミクス