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2020年4月27日
リポペプチド提示MHCクラス1分子の内因性リガンドを同定し、複合体のX線結晶構造を解明

嶋燿子1,2、森田大輔1,2、水谷龍明1,2、森直樹3、三上文三4、杉田昌彦1,2 

(1京都大学ウイルス・再生医科学研究所細胞制御分野、2京都大学生命科学研究科高次細胞制御学分野、3京都大学農学研究科化学生態学研究室、4京都大学農学研究科応用構造生物学分野)

”Crystal structures of lysophospholipid-bound MHC class I molecules”
Journal of Biological Chemistry (2020) doi: 10.1074/jbc.RA119.011932

概要

MHCクラス1分子はウイルスや細菌に由来する8-10残基長のペプチド抗原をリガンドとして結合し、キラーT細胞へと提示する重要な免疫分子です。一方、非感染状態においては自己蛋白質に由来するペプチドがその内因性のリガンドとして機能することが知られています。内因性リガンドは健常細胞におけるMHCクラス1分子の細胞表面発現レベルを維持し、ナチュラルキラー細胞からの細胞傷害を防ぐ役割を担っています。これに対して、近年、脂質化を受けた4-5残基長のペプチド抗原、すなわち「リポペプチド」を結合し、キラーT細胞へと提示する新しいMHCクラス1サブセットが同定されました(Morita et al. Nat. Commun. 2016 and Yamamoto et al. J. Immunol. 2019)。リポペプチドを生み出すウイルス蛋白質への脂質修飾反応(ミリスチン酸修飾)は、その病原性に深く関わることから、リポペプチド提示MHCクラス1分子群はウイルス免疫において重要な役割を果たすものと考えられます。しかしながら、リポペプチド提示MHCクラス1分子が結合する内在性リガンドの実体については不明でした。

本研究では、アカゲザルにおいて同定されたリポペプチド提示MHCクラス1分子(Mamu-B*098, Mamu-B*05104)をモデルとして、そのリコンビナント蛋白質を細胞から調製し、質量分析によってリゾリン脂質(図A)が内在性リガンドであることを発見しました。また、MHCクラス1:リゾリン脂質複合体の共結晶構造解析から、そのユニークな結合様式を解明しました。さらに、リゾリン脂質が内在性リガンドであることと一致し、リポペプチド提示MHCクラス1分子群はその細胞表面での発現にTAPというペプチド輸送体を必要としないことを見出しました。これらの特徴は、一般的なペプチド提示MHCクラス1分子群とは一線を画すものであり、ペプチド提示MHCクラス1とリポペプチド提示MHCクラス1という二つのサブセットは異なる内在性リガンドを活用していることが明らかとなりました(図B)。
非感染状態において、リポペプチド提示MHCクラス1分子はリゾリン脂質群を結合し、発現レベルを維持する一方、ウイルス感染に伴い、多量のウイルスリポペプチドが産生されると、結合リガンドをリポペプチドへと切り替え、キラーT細胞応答を誘起するものと考えられます。

図. 2つのMHCクラス1サブセットにおける内在性リガンドの違い

(A) リゾリン脂質の代表例として、リゾホスファチジルコリン(16:0)の構造式。(B) 発現様式のモデル。ペプチド抗原提示を担うMHCクラス1分子は、自己蛋白質に由来するペプチドを小胞体内で結合し、細胞表面での発現レベルを維持している。この時、小胞体内腔へのペプチドリガンドの輸送はTAP輸送体が担っている(左)。一方、リポペプチド抗原提示を担うMHCクラス1分子であるMamu-B*098やMamu-B*051はペプチドでは無く、リゾリン脂質をTAP非依存的に結合することで、細胞表面へと表出することが出来る(右)。