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2019年3月21日
PAX1/9とSOX9によるアグリカンのエンハンサーの転写活性化の仕組みを解明

滝本 晶1, 國府 力2, 渡邊 仁美3, 佐久間 哲史4, 山本 卓4、近藤 玄3、開 祐司1、宿南 知佐5
1京都大学ウイルス・再生医科学研究所 生体分子設計学、2大阪大学・大学院医学研究科・ゲノム生物学、3京都大学ウイルス・再生医科学研究所附属再生実験動物施設、4 広島大学・大学院理学研究科・分子遺伝学、5広島大学・大学院医歯薬保健学研究科・生体分子機能学

Differential transactivation of the upstream aggrecan enhancer regulated by PAX1/9 depends on SOX9-driven transactivation

Scientific Reports  (2019) 9: 4605.   Doi: 10.1038/s41598-019-40810-4
https://www.nature.com/articles/s41598-019-40810-4

概要

椎間板は、ゲル状の髄核とそれを取り囲む線維輪及び終板軟骨から構成される体内では最大の無血管組織で、脊椎への過重負荷を吸収するショックアブソーバーとしての役割を果たしています。無血管であるために、加齢や外傷などによって損傷すると、本来の構造への修復と機能回復が非常に困難で、治療の発展につながる分子的なメカニズムの解明が望まれています。転写因子であるPAX1/9は、発生の過程では、将来の脊椎骨を形成する硬節で発現していますが、軟骨形成に伴って椎体での発現は消失し、椎間板の線維輪に限局して発現するようになります。Pax1/9のダブルノックアウトマウスでは、椎体と椎間板が欠失してしまうので、椎間板が形成されてからPax1/9がどのような役割を果たしているのかは、これまでほとんど明らかにされていませんでした。
今回、研究グループは、軟骨形成領域でPax1を過剰発現するトランスジェニックマウス (図1) と軟骨や椎間板に発現するプロテオグリカンであるアグリカンの組織特異的転写を制御するエンハンサーを欠失するマウスを作成しました。Pax1を過剰発現するトランスジェニックマウスでは、アグリカンの発現が著しく低下し、背骨にみられる前後軸に沿った脊椎骨と椎間板の繰り返し構造が失われ、脊索が残存するとともに、軟骨成熟も抑制されます。ゲノム編集技術を用いて作成されたアグリカン遺伝子の上流で組織特異的転写を制御するエンハンサーを欠失するマウスは、ホモマウスの椎間板では、アグリカンの遺伝子発現は、約40%低下しました。このアグリカン遺伝子の組織特異的エンハンサー領域の転写は、SOX9とSOX5/6によって強く活性化されますが、PAX1/9が共発現すると、SOX9あるいはSOX5/SOX9、SOX6/SOX9による転写活性化が抑制されます。一方、SOX9が存在しない場合には、PAX1/9は弱い転写活性化因子として作用します。PAX1/9とSOX9の結合部位は、部分的に重複しているので、これらの転写因子が共存する場合には、競合がおこると考えられます (図2)。
このように、今回の研究によって、ショックアブソーバーとして機能する椎間板の成熟にPAX1/9が関与し、SOX9やSOX5/6とともにアグリカンの転写を調節するメカニズムが明らかになりました。

図1.Pax1を過剰発現するトランスジェニックマウス

図2.アグリカンエンハンサーにおける転写制御