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2017年4月25日
マウス精子では、細胞膜ラフトの局在変化と受精能が相関する

渡邊仁美1、竹田理恵1、廣田圭司1、近藤 玄1

1京都大学ウイルス・再生医科学研究所統合生体プロセス分野・附属再生実験動物施設)

“Lipid Raft Dynamics Linked to Sperm Competency for Fertilization in Mice”

Genes to Cells: 20 (2017) | DOI: 10.1111/gtc.12491

概要

哺乳類精子は射出直後には受精能を持たないが、数々の段階的なプロセスを経ることで受精能を獲得することが知られている。我々は先行研究において、受精能獲得過程にある精子の膜表面ではGPIアンカー型タンパク質(GPI-AP)遊離とラフトの局在変化が連動して起こり、これが受精に重要な反応であることを見出した。本研究では、実験用近交系マウスで妊孕性に差があるC57BL/6系統とBALB/c系統に着目し、2系統間で精子受精能獲得に関するさまざまなパラメータ(GPI-AP遊離、細胞膜ラフトの局在変化、奇形精子率、先体反応の誘導、精子膜からのコレステロール遊離、タンパク質のチロシンリン酸化)について、体外受精率との相関を比較解析した。 その結果、C57BL/6系統では、細胞膜ラフトの局在変化が顕著にみられたが、BALB/c系統ではほぼみられず、両系統間で統計学的有意差が認められた。さらに、DBA/2、C3H系統ついても同様の解析を加え4系統間の比較を行い、またICR系統については個体間比較を行ったところ、ラフト局在変化の度合いと体外受精率との間に正の相関関係を認めた。これらのことから、マウス精子では、細胞膜ラフトの局在変化が、受精能獲得過程における重要なステップのひとつであることを示唆した。

図の説明

(A)C57BL/6マウスの精子では、精子成熟が進行するとGPI-AP(ここではEGFP-GPIで示す)の精子膜からの遊離(消失)とともに細胞膜ラフト(ここではGM1で示す)が分散型から頭部全体型へと局在変化するが、BALB/c精子ではこれがほとんどみられない。
(B)4系統の近交系マウスをもちいて、ラフト局在変化率と体外受精率の相関性を調べたところ、正の相関(相関係数:0.833)が認められた。
(C)ICRマウス系統について8個体のラフト局在変化率と体外受精率を調べたところ、両者の間にさらに強い正の相関(相関係数:0.903)を認めた。