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2022年10月31日
男性ホルモンが喘息の発症を防ぐ – 喘息の性差の原因を解明 –

Aki Ejima, Shinya Abe, Akihiro Shimba, Susumu Sato, Takuya Uehata, Shizue Tani-ichi, Satoru Munakata, Guangwei Cui, Osamu Takeuchi, Toyohiro Hirai, Shigeaki Kato, and Koichi Ikuta.
The Journal of Immunology, 209: 1083-1094, 2022.
DOI:10.4049/jimmunol.2200294

概要

自己免疫疾患やアレルギーなどの免疫疾患は、男性よりも女性の患者が多いことが知られています。その原因の一つに性ホルモンの関与が示唆されますが、性ホルモンとアレルギーとの関係については今まで不明でした。

生田宏一 医生物学研究所教授と江島亜希 生命科学研究科博士課程学生らの研究グループは、男性ホルモンであるアンドロゲンがアンドロゲン受容体を介して二重特異性脱リン酸化酵素DUSP2の発現を上昇させ、2型ヘルパーT(Th2)細胞のサイトカイン産生を抑制することで、アレルギー性気道炎症を抑えることを明らかにしました。これは成人後に男性の喘息の頻度が低下することを良く説明しています。

研究グループは、主要な免疫細胞であるTリンパ球(T細胞)に着目し、T細胞だけでアンドロゲン受容体遺伝子を欠損するマウスにアレルギー性気道炎症を誘導して、アンドロゲンがT細胞の機能と気道炎症にどのような影響を与えるのかを解析しました。その結果、アンドロゲンが、Th2細胞においてアレルギーを増悪させるインターロイキン5(IL-5)などの2型サイトカインの産生を抑制することが分かりました。さらに、この抑制機構は、アンドロゲン受容体がDusp2遺伝子に結合してその発現を上昇させ、p38の脱リン酸化を促進することで引き起こされることが明らかになりました。以上の結果から、アンドロゲンがTh2細胞のDUSP2-p38経路を介してサイトカイン産生を抑制することで、成人後に男性の喘息の頻度が低下することが示唆されました。本研究で得られた知見は、効果の高い喘息の治療薬の開発や他の免疫疾患における性差の機序の解明など、さらなる研究に発展することが期待されます。

本研究成果は、米国の国際学術誌「The Journal of Immunology」の電子版(2022年9月15日)にオンライン掲載されました。


図 アンドロゲンはT細胞のサイトカイン産生を低下させて喘息を減弱させる

1.研究の背景
近年、免疫に性差があること注目されています。一般的に女性が男性よりも免疫機能が高く、免疫によって引き起こされる自己免疫疾患やアレルギーも女性が多いことが知られています。この性差は男女の違いを規定する性ホルモンが要因の一つと推測されますが、免疫機能には様々な細胞や因子が関係しているため、性ホルモンがどのように免疫機能を制御するかは不明の点が多いままでした。私たちは、アレルギー疾患である喘息において思春期以降に男性患者の頻度が低下することに着目し、性ホルモンと免疫機能に焦点を当て、喘息の性差を引き起こす機序の解明を目指しました。

2.研究手法・成果
本研究では、T細胞だけでアンドロゲン受容体遺伝子あるいはエストロゲン受容体遺伝子を欠損したマウスにイエダニ抽出物を与えてアレルギー性気道炎症を誘導しました。その結果、女性ホルモンのエストロゲンではなく男性ホルモンのアンドロゲンが、アレルギーを誘導する2型ヘルパーT(Th2)細胞のサイトカイン産生を抑制することで、気道炎症を抑えることが分かりました。次に、網羅的な遺伝子発現解析から、アンドロゲンの炎症抑制機構に二重特異性脱リン酸化酵素Dusp2遺伝子が関与することを見出しました。さらに、アンドロゲン受容体がDusp2遺伝子に結合することでDUSP2の発現を上昇させ、p38を脱リン酸化することでIL-5などの2型サイトカインの産生を抑制することを発見しました。この結果は、思春期以降に男性患者の頻度が減少することを良く説明しています。

3.波及効果、今後の予定
本研究で、アンドロゲンがDUSP2-p38経路を介してTh2細胞の2型サイトカイン産生を抑制する機序が明らかになりました。この結果は、アンドロゲンの作用経路を標的とした喘息治療薬の開発につながる可能性があります。さらに、他のアレルギーや自己免疫疾患の性差の原因の解明などさらなる研究に発展することが期待されます。

4.研究プロジェクトについて
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(20H03501「自然免疫系リンパ球を支えるIL-15産生性微小環境の同定と病態における役割」、20K21525「グルココルチコイドによる自己免疫疾患の誘導機構」、18H05411「シンギュラリティ細胞の内部状態を同定するための細胞操作&遺伝子発現解析法の開発」)、武田科学振興財団、清水免疫学・神経科学振興財団、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業、京都大学ウイルス・再生医科学研究所(現:医生物学研究所)ウイルス感染症・生命科学先端融合的共同研究拠点と日本免疫学会「きぼう」プロジェクトの支援を受け実施しました。