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2022年11月9日
効率的な臨床用ヒトES細胞株の樹立開発と細胞株のバンキングに成功

高田 圭、中谷 良子、森部 江美子、山崎-藤垣 静香、藤井 麻衣、古田 昌代、末盛 博文、川瀬 栄八郎
(京都大学医生物学研究所 附属ヒトES細胞研究センター 臨床基盤分野)

Efficient derivation and banking of clinical-grade human embryonic stem cell lines in accordance with Japanese regulations

Regenerative Therapy (2022) 21, 553-559. doi.org/10.1016/j.reth.2022.10.006

京都大学医生物学研究所 川瀬栄八郎 准教授、高田圭 同特定職員らの研究グループは、同所附属ヒトES細胞研究センター臨床基盤分野に設置されたCell Processing Facility(CPF)で再生医療新法に従った臨床用ヒトES細胞株の樹立を進めています。

本研究グループは昨年KthES11株の樹立成功に関する論文発表しましたが、その樹立効率はあまり高くないという問題がありました。今回、臨床用ヒトES細胞株を効率的に樹立することに成功し、その成果が国際誌Regenerative Therapy誌に掲載されました。さらに詳細な評価を行い、KthES11を含め臨床可能なES細胞株6株全てにおいて長期間培養後もヒトES細胞としての基本的な特性を有しており、私達が行った安全性試験も全て合格したことを確認しました。

胚盤胞は内側に存在する内部細胞塊とそれを取り囲む栄養外胚葉という細胞集団によって形成されています。この内部細胞塊の部分がES細胞の元になりますが、栄養外胚葉の部分が残っていると、内部細胞塊が培養基質に十分に接着できなことがわかりました。そこで私達はマイクロマニピュレーターを用いて栄養外胚葉部分を丁寧に除去することでこの問題を解決しました。さらに樹立までの初期プロセスでの培養に工夫を加えることで、効率よく臨床用ヒトES細胞株の樹立に成功しました。

本施設ではKthES11をはじめ現在までに臨床可能なヒトES細胞株を7株有しており、基礎的研究や目的とする細胞への分化能の検討などに用いるための『評価用ストック』と臨床研究用として実際に使用可能な『臨床用ストック』の準備もできております。具体的な分配申請に関してはヒトES細胞研究センターのホームページの「ヒトES細胞の分配申請」を参考にしてください。

多能性幹細胞を用いた細胞移植医療において、iPS細胞に加え、本研究グループで樹立足された臨床用ヒトES細胞株を新たな選択肢として比較検討を進めることで、再生医療の大きな前進に寄与することが期待されます。

図1 臨床用ヒトES細胞株樹立における内部細胞塊分離の様子
(A)顕微鏡に設置したマイクロマニピュレーター(↓)を用いて胚盤胞から内部細胞塊だけを分離する。(B)樹立に用いる胚盤胞。内部細胞塊の部分を点線で示す。(C)きれいに単離された内部細胞塊。(D)培養翌日の内部細胞塊。培養基質にしっかりと接着していることが確認できる。

図2 細胞調整室での臨床用ヒトES細胞の樹立プロセスにおける培養操作
細胞数が非常に少ない段階では実体顕微鏡下でヒトES細胞のコロニーを確認しながら無菌操作を行う。(安全性を確保するため特別に洗浄された部屋でクリーンスーツを着用して作業する)