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2024年1月25日
細胞核内のDNAがゆるむ仕組み ―二重らせんの逆ねじり―

Jumpei Fukute, Koichiro Maki, Taiji Adachi

The nucleolar shell provides anchoring sites for DNA untwisting

Communications Biology 7, 83 (2024); doi.org/10.1038/s42003-023-05750-w

概要

概要
生物の遺伝情報を担うDNAは、二重らせんの構造を形成しています。細胞内では、DNAの二重らせんがゆるむことで、様々な機能をもったタンパク質がDNAに結合・集積し、遺伝情報の読み出し・コピー・修復などの多彩な機能が発揮されます。これまで、特定のタンパク質がDNAに対してトルクを発生させることで二重らせんをゆるめる仕組みが提案されていましたが、実際には、ふらふらしたDNAの1点に力をかけてねじるだけでは、二重らせんはなかなかゆるみません。
福手淳平 京都大学大学院生命科学研究科博士後期課程学生、牧功一郎 京都大学医生物学研究所助教、安達泰治 同研究所教授 は、細胞内において、従来のトルクを発生するモーター分子(注1)に加え、DNAの軸回転を抑える構造が存在することで、DNAの二重らせんが逆にねじられる力学的な仕組みを明らかにしました(図1)。具体的には、細胞に取り込ませたソラレン誘導体(注2、二重らせんがゆるいDNAに結合する低分子)を蛍光標識することで、DNAの二重らせんがゆるむ発生場所をつきとめました。さらにクロマチン免疫沈降解析(注3)により、二重らせんがゆるむ場所では、DNAがタンパク質の集合体(注4)にアンカリングされていることを見いだしました。このDNAとタンパク質集合体の結合を阻害すると二重らせん構造が元に戻ったことから、タンパク質集合体へのアンカリングを介したDNAの軸回転の抑制が、DNAの二重らせんがゆるむために必要であることが示されました。
将来は、DNAの二重らせんを人為的にゆるめることで、遺伝情報の読み出しのオン・オフを制御することが可能となると考えられ、新たなゲノム編集・遺伝子治療技術としての応用が期待されます。
本研究成果は、2024年1月23日に国際学術誌「Communications Biology」にオンライン掲載されました。


図1 細胞内でDNAの二重らせんのゆるみが蓄積している領域を示す蛍光画像(左)、および、DNAの二重らせんがゆるくなる力学的な仕組み(右)。
モーター分子がトルクを発生するとともに、タンパク質集合体へのアンカリングがDNAの軸回転を抑えることで、DNAの二重らせんが逆にねじられる。

<用語説明>
(注1)モーター分子 化学エネルギーから力学的仕事を生み出す分子の総称。細胞核内ではRNAポリメラーゼやDNAポリメラーゼが該当する。
(注2)ソラレン誘導体 DNAに結合する低分子。DNAの二重らせんがゆるむことで、ソラレンがDNAに結合する確率が上昇することが知られている。
(注3)クロマチン免疫沈降解析 DNAとタンパク質の相互作用を解析するために用いられる実験手法。目的のタンパク質に対する抗体を用いてDNA断片を精製し、その配列を解析することで、タンパク質が結合するゲノム領域を同定することができる。
(注4)タンパク質集合体 タンパク質どうしで複数の箇所で非共有結合を形成することで生じる集合体。

<研究者のコメント>
●修士課程から「力とDNA」をテーマに掲げ、研究を開始しました。力もDNAも目では見えないので最初は苦労しましたが、二重らせんがゆるいDNAのイメージングに成功してからは研究が一気に加速し、説得力のある結果が次々と得られ、大変うれしかったことを覚えています。今後は、細胞内におけるDNA二重らせんのねじれを自在に操作する技術を開発し、遺伝子編集・治療への応用を目指します。(福手淳平)