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2024年5月30日
ラッサウイルスの感染を阻害する新規化合物の同定

張子涵1,2,3、武長徹1,2,3、Sarah Katharina Fehling4、五十嵐学5、広川貴次6、村本裕紀子1,2,3、山内康司1,2,3、大西知帆1,2,3、中野雅博1,2,3、浦田秀造7、Allison Groseth8、Thomas Strecker4、野田岳志1,2,3

1. 京都大学医生物学研究所 微細構造ウイルス学分野
2. 京都大学大学院 生命科学研究科 微細構造ウイルス学分野
3. 国立研究開発法人 科学技術振興機構CREST
4. Institute of Virology, Phillips University Marburg, Germany
5. 北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所
6. 筑波大学医学医療系
7. 長崎大学 感染症共同研究拠点
8. Institute of Molecular Virology and Cell Biology, Friedrich-Loeffler-Institut, Germany

Hexestrol, an estrogen receptor agonist, inhibits Lassa virus entry

Journal of Virology. (2024)  https://doi.org/10.1128/jvi.00714-24

概要

ラッサウイルスはアレナウイルス科に属しヒト対して致死的なラッサ熱を引き起こしますが、その治療薬は未だ存在しません。そこで私たちはラッサウイルスに対する治療薬を開発するため、ラッサウイルスの糖タンパク質GP(LASVGP)を被った水疱性口内炎シュードタイプウイルス(VSV-LASVGP)を用いて低分子化合物のスクリーニングを実施しました。その結果、エストロゲン受容体作動薬として知られているHexestrol(HES)が細胞毒性を伴わない濃度(CC50 = 49.6 µM)でVSV-LASVGPの増殖を強く抑制することを見出しました(IC50=0.63 µM)。さらにフィリップ大学マールブルク(ドイツ)のBSL-4施設でラッサウイルスに対する抗ウイルス活性を解析し、HESがその増殖を強く抑制することを確認しました(IC50=0.61 µM)。膜融合試験からHESはLASVGPのレセプター結合能を阻害せず、膜融合活性を阻害することを明らかにしました。また、他のエストロゲン受容体作動薬や拮抗薬を用いた解析から、HESはエストロゲン受容体に作用してGPの膜融合活性を阻害するのではないことを確認しました。LASVGPとHESのドッキングシミュレーションから、HESはLASVGPの膜貫通領域のポケットに結合してその膜融合活性を阻害すると考えられました(図1)。これらの研究から、HESがラッサウイルスの感染を阻害する新規治療薬となりうることを明らかにしました。


図1:LASVGPとHESのドッキングモデル。HES(黄色)はLASVGPの膜貫通領域に結合し、膜融合活性を阻害すると考えられる