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2021年度 共同研究課題達成状況

【1】新型コロナウイルス研究として計10件の研究を行った。

研究代表者: 京都大学 iPS細胞研究所 講師 高山和雄
研究課題: ヒトiPS細胞におけるSARS-CoV-2感染・複製能の評価
研究成果: ACE2を発現したヒトiPS細胞を作製することによって、未分化ヒトiPS細胞においてもSARS-CoV-2が高効率に感染・複製できる。また、8名(うち男性4名、女性4名)のドナーより樹立したACE2-iPS細胞においてSARS-CoV-2感染実験を行ったところ、男性iPS細胞の方がウイルス産生能が高いことを明らかにした。ACE2-iPS細胞はSARS-CoV-2感染の個人差を再現するツールとして活用されることが期待される。
研究代表者: 京都大学医学研究科 免疫細胞生物学 教授 上野 英樹
研究課題: 新型コロナウイルス特異的免疫応答解析
研究成果: 本研究で、感冒コロナウイルス感染で誘導されるT細胞による交差反応性が新型コロナウイルス感染症での経過と大きく影響することを見出だした。男女の性差によってT細胞免疫応答の質に大きな差があり、さらに年齢によっても大きな差があることを見出した。
研究代表者: 北海道大学大学院薬学研究院 教授 前仲勝実
研究課題: SARS-CoV-2蛋白質の性状解析と感染阻害抗体の開発
研究成果: 本研究では、先行研究と比較して優れた中和活性と交差性、ハムスターモデルでの予防・治療を有する抗体NT-193について、標的であるSARS-CoV-2スパイクタンパク質との共結晶構造の決定に成功し、高い中和活性と交差反応性の構造基盤を解明した。また、クライオ電子顕微鏡解析を用いた構造決定にも目処をつけ、両方の抗体の結合モードを明らかにした。
研究代表者: 熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センター 教授 松下 修三
研究課題: 新型コロナウイルスに対する中和抗体の解析
研究成果: COVID-19患者の末梢血B細胞をシングル・セル・ソートし、抗体遺伝子を増幅して 1102個の組み替え抗体を作成した。得られた抗体の8%がSタンパク質に結合し、5抗体(5.7%)がSARS-CoV-2に対する中和活性を示した。これらの中和抗体はアルファ株には有効であったが、ベータ、ガンマ株はSタンパク質のRBDへの結合が非常に強い2抗体しか中和することができなかった。
研究代表者: 大阪急性期・総合医療センター 精神科 主任部長 松永 秀典
研究課題: SARS-CoV-2に対する抗体測定を用いたCOVID-19の病態評価
研究成果: ラジオリガンドアッセイを用いて、SARS-CoV-2のN蛋白に対する抗体測定を行った。また、ワクチン接種の数か月後にN蛋白に対する抗体をラジオリガンドアッセイで測定することにより、感染が抑制されたか否かを調べた。
研究代表者: 群馬大学医学系研究科 生体防御学 教授 神谷 亘
研究課題: 組換え低病原性コロナウイルスを用いによる新型コロナウイルスに対するワクチン開発
研究成果: 低病原性のコロナウイルスとしてヒトコロナウイルスNL63を用いて、感染性cDNAの構築を行った。全長のcDNAの構築にはGibson Assemble kitを用いることで長鎖DNA断片を複数断片細菌人工染色体にクローニングを行った。感染性cDNAの配列を確認した後、スパイク遺伝子のみを入れ替えたキメラウイルスの作出を試みた。
研究代表者: 京都大学医学研究科 教授 長尾 美紀
研究課題: 新型コロナウイルス感染症の疫学・臨床像の解析と検査法の検討
研究代表者: 京都大学 iPS細胞研究所 教授 齊藤 博英
研究課題: 新規RNAスイッチによるウイルス由来分子の検出および新規治療薬の開発
研究成果: 本年度は、新型コロナウイルス産生細胞が発現するsmall RNA (svRNA)の機能解析を高山研究室と共同で行った。svRNAの機能を阻害するinhibitorあるいはsvRNAの機能を模倣するmimicの感染細胞への導入が、SARS-CoV-2の複製に寄与することを明らかにし、特許申請に至った。
研究代表者: 京都大学医学研究科 教授 大森孝一
研究課題: COVID-19治療薬開発のためのヒト気道細胞移植動物を用いた評価システムの開発
研究代表者: 京都大学医学研究科 特定准教授 後藤 慎平
研究課題: 気道・肺胞上皮を用いた抗新型コロナウイルス薬の探索と同定
研究成果: ヒトiPS細胞から肺原芽細胞に分化誘導して表面抗原を用いて単離後、気液界面培養で気道や肺胞上皮細胞を作成して薬効評価用に細胞を提供した。SARS-CoV-2感染時の遺伝子発現応答は気道と肺胞では反応が異なることを見出した。分化誘導ごとに結果がばらつくことを防ぐ工夫として、肺原芽細胞を磁気ビーズで標識したあと、自動単離装置を用いる方法で、肺原芽細胞を凍結保存して、凍結毎に細胞の回収率、肺原芽細胞細胞の分化マーカーNKX2.1の陽性率などを計測することで、品質管理が可能となった。

【2】ウイルス解析研究として計8件の研究をおこなった。

研究代表者: 国立感染症研究所・感染病理部 非常勤研究員 宮本 翔
研究課題: インフルエンザウイルスの核内複製機構の解明
研究成果: ウイルス感染細胞におけるインフルエンザウイルスの複製に必要なvRNP構成タンパク質が感染初期に核小体に局在することが明らかとなった。特にNPにおいては異なる複数のウイルス株において核小体局在が確認され、インフルエンザウイルスに共通した現象であることが示唆された。このNPの核小体移行は機能的なRNP形成に必須であることが実証され、核小体がインフルエンザウイルスの核内複製において重要な役割を果たすことが明らかになった。
研究代表者: 国立感染症研究所エイズ研究センター センター長 俣野 哲朗
研究課題: サルエイズモデルにおけるCTLの腸管感染防御能に関する研究
研究成果: これまでの研究を発展させ、SIV Gag/Vif断片連結抗原発現SeVベクターワクチン接種後にSIV経直腸チャレンジを行ったサルの解析研究を継続・発展させ、本ワクチンによるGag/Vif特異的CTL細胞反応の選択的誘導に基づく感染防御効果を明らかにした。本研究結果は、多様性の高いEnv抗原を用いないHIVワクチンで初めて粘膜感染防御効果を示したものとして重要な成果である。
研究代表者: 京都大学霊長類研究所 教授 明里 宏文
研究課題: 霊長類モデルを用いたHIV根治療法の評価研究
研究成果: 優勢な抗ウイルス免疫機能を維持したHIV潜伏感染カニクイザルをモデル動物として用いて、既存の末梢血でのHIV定量法に加えリンパ組織におけるプロウイルスDNA (pDNA), 細胞内ウイルスゲノムRNA (CA-US-vRNA) のコピー数, 定量的感染性ウイルス定量系からなるリザーバー定量システムを駆使することにより、shock and kill 療法によるリザーバーサイズ縮減効果を評価可能であることが明らかとなった。
研究代表者: 京都大学iPS細胞研究所 教授 金子 新
研究課題: アカゲザルiPS細胞由来遺伝子改変T細胞の生体内評価
研究成果: SHIV感染防御能を付与したCCR5 homo ノックアウトiPS細胞株(ΔCCR5 iPS細胞)由来造血前駆細胞をSHIV感染アカゲザルに骨髄内移植法による自家移植実験を行った。移植後明らかな有害事象を認めることなく経過したが、骨髄内にiPS細胞由来の移植細胞の生着を認めず、SHIVのplasm viral loadの変化も認めなかった。造血前駆細胞の分化誘導法を改良し、2頭目のアカゲザルでの自家移植実験を準備中である。
研究代表者: 長崎大学感染症共同研究拠点 教授 南保明日香
研究課題: 革新的顕微鏡技術を用いたエボラウイルス粒子形成に伴う生体膜動態の微細構造解析
研究成果: 本研究において、研究代表者は、バイオイメージング技術を用いてウイルス粒子産生細胞での生体膜動態をリアルタイムに可視化する系を確立し、VP40が、エンドサイトーシスを抑制すること、その一方で、エキソサイトーシスを促進することで、ウイルス粒子形成によって喪失する形質膜成分を供給するという新規知見を世界に先駆けて解明した。また、この過程に関わる分子機構として、細胞内膜輸送に関与するコート複合体とVP40との相互作用の重要性が明らかになった。
研究代表者: 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 教授 本田 知之
研究課題: DNA損傷修復系とRNAウイルスとの相互作用の解析
研究成果: DDR分子群についてshRNA発現プラスミドを作成し、ボルナウイルス感染を抑制する分子を探索した。その結果、HMGB1ノックダウンにより、ボルナウイルス複製が抑制されることが明らかとなった。他の核内で複製するウイルスにも影響するか検討し、B型肝炎ウイルスの増殖にもHMGB1が関与すること見いだした。さらに、他のRNAウイルスとの差異を明らかにするために、マーフブルグウイルスのウイルス分子と相互作用する宿主因子を探索した。
研究代表者: 東京大学医科学研究所感染症国際研究センター 准教授 佐藤 佳
研究課題: ヒト化マウスモデルを用いたウイルス感染細胞のマルチオミクス解析
研究成果: ヒト化マウスモデルを用いたHIV-1感染細胞のマルチオミクス解析によって、既存の手法では解析がきわめて困難な、生体内における 「真の」HIV-1感染細胞の特徴を多角的に描き出すことに成功した。以上の研究成果を、学術論文にまとめ、Cell Reports誌にcorresponding authorとして発表した。
研究代表者: 国立感染症研究所ウイルスI部 主任研究官 髙松 由基
研究課題: フィロウイルスのヌクレオカプシド輸送機構の解明
研究成果: 非感染性のライブセルイメージングシステムを構築し、MARVのNC形成・輸送を担うウイルスタンパク質NP, VP35, VP24を同定することに成功した。また受け入れ研究室である野田先生のグループから、マールブルグウイルスNP-RNAの近原子分解能構造が報告された(本共同研究の成果の一つ)。解明したヘリックス構造はエボラウイルスのNP-RNA構造と共通点を多く認めた。

【3】最先端生命科学研究として計10件の研究を行った。

研究代表者: 大阪大学免疫学フロンティア研究センター 特任准教授 岡部 泰賢
研究課題: マクロファージの組織発生機構の解明
研究成果: マウスの様々な組織(腹腔、肺、肝臓、腸管、脂肪組織、脾臓、精巣、腎臓など)から常在性マクロファージを単離し、RNA-seqによる網羅的遺伝子発現解析を行った結果、マクロファージの組織特異性を制御することが考えられる候補因子群を各組織で同定することに成功した。本共同研究において、腹腔に局在するマクロファージで特異的に発現するスフィンゴシン酸(S1P)受容体の機能を検討し、S1Pを介したシグナルがマクロファージの腹腔局在に必須であることを明らかにした。
研究代表者: 鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科 教授 奥野 浩行
研究課題: 成体神経新生による大脳認知機能調節機構の解明
研究成果: 1) 自由行動下マウスの海馬からカルシウムイメージングを行ない、神経細胞の応答特性を解析した。
2) リコンビナーゼ依存的な赤色蛍光タンパク質レポーターマウスを新規に複数系統樹立した。
3) 上記レポーターマウスに神経活動依存的にリコンビナーゼが発現するトランスジェニックマウスを掛け合わせ、認知課題を遂行した際に活動した神経細胞を全脳レベルで標識する系を構築した。
研究代表者: 京都大学 大学院医学研究科 准教授 野村 紀通
研究課題: クライオ電子顕微鏡を用いたB型肝炎ウイルス侵入受容体の精密立体構造解析
研究成果: NTCPは胆汁酸の腸肝循環を担うトランスポーターとして機能すると同時にB型肝炎ウイルスHBVの肝細胞侵入を仲介する受容体としても働く。クライオ電子顕微鏡解析により、ヒトNTCPの構造を分解能3.4 Åで決定し、NTCPーHBV相互作用において重要なNTCPのドメイン・残基を特定した。また、NTCPの立体構造に基づいて、HBV感染の種特異性やヒト集団のなかでHBV感染非感受性となる要因を考察した。
研究代表者: 横浜市立大学大学院生命医科学研究科 准教授 禾 晃和
研究課題: 複合的手法による細菌型S2Pの立体構造解析
研究成果: S2Pファミリーに分類される大腸菌由来のRsePおよびオルソログのX線結晶解析に成功した。部分断片の構造解析や化学修飾実験で予想されていた通り、PDZタンデムは、嵩高い状態の基質が活性中心に侵入するのを抑制するような配置をとっていた。また、膜に埋もれたβ-ヘアピンは実際にはβ-シート構造をとることが明らかになった。構造情報に基づいて変異体解析を行うことで、基質認識や切断に重要な残基や領域を同定した。
研究代表者: 京都大学医学研究科人間健康科学系専攻 准教授 伊吹  謙太郎
研究課題: サル免疫細胞を持つマウスにおけるSIV感染病態の解析
研究成果: SIVpbj株感染サル化マウスでは感染後2週以内に末梢血中でIL-6 mRNAの発現増加が見られたが、SIVB670株感染サル化マウスでは発現増加は認めなかった。in vitro実験系での解析より、SIVB670株感染サル細胞ではIL-6mRNAは有意に発現増加するが、タンパク産生量の増加を認めないことがわかった。以上より、SIVPBj株感染とSIVB670株感染ではIL-6mRNAの翻訳機構に違いがあり、このことが、SIVの感染病態の差異に影響を及ぼしていると考えられた。
研究代表者: 京都大学生命科学研究科 准教授 高原 和彦
研究課題: レクチン分子による免疫制御と自然免疫系T細胞分化における働き
研究成果: 重度の感染は強い炎症による致死的な敗血症を引き起こすことがある。一方で、病原体は宿主へ感染するために様々な炎症・免疫抑制機構を備えている。本研究では、この抑制機構を新たに敗血症の制御に応用することを目指した。具体的には、マウスLPS誘導性敗血症モデルにおいて、カンジダ菌の細胞壁由来N型糖鎖が免疫抑制性サイトカインIL-10の産生を亢進し、敗血症に伴うサイトカインストームを抑制することで生存率を改善させることを見出した。
研究代表者: 大阪大学大学院生命機能研究科 助教 下條 博美
研究課題: 転写因子Neurog2の発現動態の多様性によって制御される細胞運命決定機構の解明
研究成果: Neurog2の異なる発現動態によって制御される下流遺伝子群を明らかにするために、Neurog2が異なる発現動態を示す様々な分化段階の神経前駆細胞の回収が終了し、本年度、これらの細胞において抗Neurog2抗体を用いたChIP-seq解析を行った。今後、この解析結果をもとにNeurog2の発現動態の違いによって制御される遺伝子群の違いを明らかにする。
研究代表者: 長浜バイオ大学バイオサイエンス学部 助教 阪上 起世
研究課題: AKT活性化による神経変性疾患の理解
研究成果: Gt(Rosa)26Sor遺伝子座にCAGプロモーター下にloxP-, frt-flanked STOPカセットとhuman AKT1を挿入したノックインマウスの作製をCRISPR-Cas9により行った。今回作製を行ったものは、野生型human AKT1、活性型AKT (myrAKT∆PH)、不活性型AKT (AKT1 3A: 179A, 308A, 473A)をそれぞれ発現する3系統で、現在系統化を進めている。
研究代表者: RIKEN Center for Integrative Medical Sciences Genome Immunobiology RIKEN Hakubi Research Team Leader PARRISH, Nicholas Fredric
研究課題: A CRISPR-based reporter of Borna disease virus RNA-to-RNA, virus-to-host gene flow
研究成果: We generated knock-out mice that lack piRNA deriving ENLNs by using CRSPR/Cas system, and generated virus stocks for ongoing infection experiments. Also We injected BoDV-1 into the brains of knock-out mice.
研究代表者: 自然科学研究機構 生命創成探究センター/基礎生物学研究所 教授 青木 一洋
研究課題: 構造理論と光遺伝学を用いた細胞周期ネットワークの統合的理解
研究成果: 分裂酵母の細胞周期ネットワークに関して構造感度解析を行ったところ、複数の緩衝構造を有していることが明らかになった。つまりこの緩衝構造内の分子や活性の変動は構造の外には影響を及ぼさないことを示唆している。これを検証するために、分裂酵母に緩衝構造内の分子や活性を増減させるシステムと緩衝構造外の分子の変動を可視化するシステムを導入した。現在、これらのシステムを組み込んだ分裂酵母株の生細胞イメージングを実施している。